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記録が、歩きはじめた

 金属の残骸が、静かに転がる。

 戦いは終わっていた。


 


 廃墟に沈む夕日が、瓦礫の上に赤い影を落とす。

 ヴァルトは剣を収めると、黙って空を仰いだ。


 


 フィーネがそっと歩み寄り、息をついた。


 


「お疲れさま、ヴァルト」


 


 彼女の声には、戦いの緊張よりも、どこか深い安堵があった。


 


「さっきの……何か、記録してたの?」


「記録というより、焼きついた。……この剣に、じゃなく。俺自身に、だ」


 


 ヴァルトの言葉は、ふだんよりわずかに静かだった。

 戦いの最中、剣が記録したものと、自分が感じたもの――

 その差が、今になってじわじわと胸に残っている。


 


 フィーネはうなずく。


 


「……わかる気がする。私も……あの記憶、まだ胸に残ってる。

 悲しかった。でも、それだけじゃなかった。

 怖いのに、最後まで誰かのことを想ってた……そんな気持ちが、ずっと」


 


 言葉にするのが難しい。

 だが、確かにそこにあった“誰かの心”。


 


 ヴァルトはフィーネを見た。


 


「……お前は、記録を視て、感じてるんだな。誰かの感情を」


「そう……かも。でも、それが“私”なのかどうかも、まだよくわからない」


 


 風が吹く。遠く、崩れかけた塔が軋んだ音を立てる。


 


 フィーネはそっと視線を落とした。

 足元に転がる、壊れた機械の残骸。


 


「ねえ、ヴァルト。この世界って、昔はどうだったんだろうね」


「それを知るための力が、俺の剣にはある。……ただし、まだ全部は見せてくれないがな」


「じゃあ、歩いて探すしかないんだね。記録と、今と――その先を」


 


 ヴァルトはうなずいた。

 その言葉に、どこか確信めいた響きを感じた。


 


「目的地は、ある。……次は、北の廃道を抜けた先。旧世界の“記録庫”があると、かつて聞いた」


「記録庫?」


「国家機関が、都市単位で記録を残していた中枢施設。

 機械生命体オートマタに狙われやすい場所でもあるが――価値はある」


 


 そう、今のふたりにとって。

 事象と想い、その両方を記録する意味を知った今だからこそ、そこに向かう意味がある。


 


「じゃあ、行こう」


 


 フィーネが小さく微笑んだ。

 彼女の表情に、わずかに柔らかさが戻っていた。


 


 ヴァルトもまた、短く返す。


 


「ああ。――記録しておけ。今度は“希望を探す旅”だ」


 


 ふたりの足音が、廃墟の静寂を破って遠ざかっていく。

 その背に、新たな記録が、また一つ始まりを刻んだ。

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