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 設営が完了し、遺跡を中心として東方エリアに異常はないか、騎士達は交代で巡回する。


「……交代の時間だな。俺は少し休憩に入る」

「はっ!」



「いやーーっ‼︎」


 その時、教会裏から叫び声が聞こえる!


「何事だ⁉︎」


 だっ!


 クレイエヴァー含め三人の騎士が即座に駆け付けると、孤児院の庭で黒衣の聖女を前に子供達が泣き叫んでいた。


「いーーひっひっひっひーー!」

泣く子を前に、魔女のように笑うのは、あの聖女ラルカリースだった。


「あ、あんな小さな子供を泣かせるなんて……」

「なんて凶悪顔……奴隷を買い集めてるって噂があるが……あながち本当かもしれん」

「……」


 ゴンッ! ガンッ!


「ぐっ!」

「ぎゃっ!」

二人の騎士の頭部に鉄拳制裁を食らわし、クレイエヴァーは怒りを抑えながらも部下に命令する。


「お前達はこの先の町の見回りに向かえ……」

「「は、はっ!」」

逃げ去るように二人の騎士はバタバタと孤児院を後にした。



「うぇーーん! うまくできないよーー!」

「くそっ! どうやんだよ!」

「いひひっ! 大丈夫、最初は誰だって上手くいかないものよ……」

よく見ると、聖女と子供達の前にはキラキラと輝く石が多数散らばっていた。

……笑い方がだいぶ独特な聖女だ。


「魔石作り……か?」

「ク、クレイ様⁉︎ ど、どうしてここに?」

「少し通りがかったものでな……孤児院でおこなっていたのか……知らなかったな」

そっと一つ小石を摘み、空へと(かざ)す。

太陽の光を受け、小石はキラキラと七色に反射した。


「て、天然の魔石は遺跡やら北方で産出されるのですが、希少で高価な物になってしまいます。治療に使うものはこうして子供達に手伝ってもらっているのですよ」

「あたしたちがやってるのよ! すごいでしょ!」

小さな子が胸を張る。

つまりはこの子達は……『魔力持ち』の人間だ。

この国では希少な存在。


「あぁ……すごいな」

そう言って、そっと頭を撫でた。


 カランカラン!


「はっ! 鐘が……やだ、もうこんな時間! お昼の準備しなきゃ!」

「えぇ⁉︎ 行っちゃやだーー! もっと遊ぶのーー!」

子供達が途端にぐずり出す。


「ええっと……」

「ならば私がお相手しよう! かかってくるがいい!」

「うわぁぁーーい‼︎」


 全力で子供達の相手をし始めるクレイエヴァー。

遊具の代わりとばかりに、子供らは騎士の腕にぶら下がったり、肩車をしてもらったり……体力の無いラルカリースでは出来ない遊び方だ。


「なぁ、ラルカ。俺達の子供の名前は何がいい?」

「な、な、な!」

斜め上の質問に、真っ赤な顔になるラルカリース。

この騎士の距離感に戸惑ってばかりだ。


 くいくいっ!


「ん?」

「おねぇちゃん、きょうのおひるごはんなぁに?」

黒衣の裾を引っ張る子が、首を傾げながらラルカリースに尋ねた。


 ざっ!


「今日はお野菜のグラタンです……食事準備はもう大丈夫ですよ、ラルカリース」

声と共に、やや年配な白衣の聖女が濡れた洗濯物の入ったカゴを抱いて現れた。


「あらあら騎士様……なぜこのような所に……」

「悲鳴が聞こえたので駆けつけたのですよ」

警戒するような鋭い視線に対し、言葉と会釈を返すと、騎士は子供に声を掛ける。


「しっかり(めし)は食ってるのか?」

「うん! いつもおなかいーーっぱいたべてるよぉーー!」

「そうか」

ぽんぽんと優しく頭を撫でた。


「貴方様にわざわざご心配頂かなくても、ブドウ畑の収益と、どこかの素晴らしい貴族様からの寄付のお陰で、今は安定した孤児院の運営が出来ているのですよ」

ツンケンとした態度の老聖女はそう言い捨てて、物干し場の方へと消えて行った。

ここの教会の者達は皆、騎士への当たりが少々強いようだ。


 その時、一人の少年が楽しくなってしまったあまり、木によじ登り始めた。


「どうだーー! 高いだろーー!」

「あ、ダメ! その木は……」


 バキバキバキーーッ‼︎


 木の枝の折れる音と共に少年は落下する!


「うわぁーーっ!」


 がしっ!


「いたぁーーい!」

「⁉︎」


 クレイエヴァーが抱き止めたので、地面に墜落こそしなかったが、共に落ちた木の枝の裂け目で、右の大腿部に大きな切り傷を負った!

血が滲み出す。


「びぇぇーーん! いたいよぉぉぉーー!」

「だ、大丈夫か⁉︎」


 すると、ラルカリースは無言で魔石を掴み、ポケットから取り出したポーションの小瓶を少年の口に押し込んだ。


「⁉︎」


 ラルカリースが両手で魔石をぎゅっと握り、『祈り』を捧げた瞬間、眩い光が少年を包む。

 

 パァァァァッ……


 見る見る間に少年の傷は塞がっていった。


「これは……」

「もごっ…ありがとう! おねぇちゃん!」

口から小瓶を取り出し、少年はラルカリースに抱きついた!


 どごっ! よろっ……


「んぐっ! あ、どういたしまして……」

少年の突撃で、よろける聖女。

にこっと笑うが、顔が先程より青ざめている。

僅かだが、右足を庇うような動き。


「ラルカ?」

彼女の様子をじっと見つめ、クレイエヴァーはすくっと立ち上がった。


 がばっ!


「えっ⁉︎」

「少し移動しよう」

「きゃあぁぁぁっ!」

ラルカリースを抱き上げ、騎士はずんずんと孤児院の建物内へと突き進んで行った。


 ざっざっざっざっざっざっ!


「あ、あの、ク、クレイ様……」


 ばたん! とさっ……


 ソファに下ろした拍子で黒のロングスカートが捲れて、膝上までが少しだけ顔を覗かせた。


 赤く腫れた右の太もも……先程の少年が傷を負った箇所とまるで同じ。


「こ、これは……」

「……」

ちらりと視線を動かすと、治りかけで黄色や紫色の斑らな内出血跡が、ラルカリースの白い肌を歪んだ水玉柄に染めていた。


「ラルカ……君……まさか……魔法が……?」

「あ……あまり見ないで下さい……傷だらけで……は、恥ずかしいです……」

困惑してぷいっと顔を背けるラルカリースの頬に騎士はそっと口付けをした。


 ちゅっ……


「えっ⁉︎ ク、クレイ様⁉︎」

「ラルカは美しいよ……たとえ傷だらけだとしても、俺は君の全てが見たい……」

そう言って、そっと首筋や足に口付けをしていく。


 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ……


「えっ? あん! ちょっ、ちょっと……」


 ばんっ!


「子供達に聞きましたよ、ラルカリース! 大丈夫で……」

「「あ……」」


 ドアを開けた神官の目に、黒衣のスカートが派手に捲れ、両足を露出しているラルカリースとその白肌に口付けするクレイエヴァーの姿が飛び込んできた。


 ………………


「な、な、な、なにしとんじゃぁーーっ‼︎」

神官の怒声が孤児院を揺らすのだった。

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