眠れない日々
眠れない夜がつづいている……
確かに身体は疲れている。
それなのに眠れない。
自分は何のために介護の仕事をしているのだろうと考えると目がさえてしまうのだ。
嫌な高齢者のことだけではない。上司や同僚との関係も最悪だった。
喜久子の上司はユニットの主任。彼女は大変な介護は一切手を出さない。その癖に若い職員には重箱の隅をつつくように小言を言う。相手が言い返せないことを分かっているのだ。
主任のストレス解消の犠牲になっているのは喜久子も同じだった。
なぜかは分からない。
仕事なら失敗なくできているし、嫌な仕事でも進んでやっている。
それなのになぜか彼女から小言を言われることが多い。
同僚に関しても同じような感じだ。
『あんた、主任に言われたこと忘れたの?!』
良く言われたセリフだが、そもそもその内容は聞いたことがなく、喜久子のいないところで申し送りがされたものだった。
人手不足で新しい職員が入ってきてもすぐに辞めてしまう。
それはあのセクハラ爺さんと暴力婆さん、そして主任とその一派のせいだ。
『はああ……』
家に帰ってため息が出る。
あの時はちょうどすぐ下の弟が横浜の家具メーカーに就職した時だった。
桜が咲いていた。でも桜の花の色さえも喜久子には灰色に見えた。
もう仕事に行きたくない。
いつしかそんなふうに思うようになってしまっていた。
でも仕事に行かなければみんなに迷惑をかけてしまう。
行きたくないだなんて思う自分はなんてダメな人間なんだろう。
数か月はそんな思いと、仕事から逃げ出したい気持ちとの間で揺れていた。