7話 平目小学校七不思議
真っ暗な田舎道を歩き続ける事数十分後……
辺りに人工的な光が増えたかと思ったら周りの空気が変わり、いつの間にか冥界から人の住む地上に出ていた。
「はいとうちゃく」
周りはそこそこの片田舎、そして目の前には人気の無いそれなりの大きさの校舎。校門には『平目小学校』と書かれている。
「此処が紅ン暴さんがお世話になってる学校……」
目の前に見える、そこそこ古そうなコンクリートの校舎からは妙な空気が漂っている気がした。気のせいかもしれないが、校舎の方から謎の視線が飛んできたような気もして少し怖くなった。
「紅ン暴さんの言う通り、何かいるっぽい……」
「よし、じゃあ早速始めるとしますか」
「カゲリさん、もう仕事始めるんですか?紅ン暴さんが来るのを待った方がいいのでは?」
「その前にどうしてもやりたい事があるから」
「やりたい事……?」
「夜の小学校と言ったらやる事は1つ……」
(もしかして、冥界の住民ならではのしきたりとかあったりするのかな……)
私は固唾を飲み、カゲリの次の言葉を静かに待った。
「シラちゃん……肝試ししよ♡」
全然違った。
「カゲリさん真面目にやってください」
「ダメなの?折角こんなに丁度いい学校があるのに……」
「カゲリさん、今回は紅ン暴さんの依頼で「学校に居座る妙な奴らを追い払って欲しい」って言われたから来たんですよね?」
「ちょっとだけちょっとだけ、校舎に片足だけでも……」
「それはもう肝試しとは言いませんよ……今は紅ン暴さん待つのが先ですよ」
「夢居の言う通りだ」
カゲリと会話をしていると学校の正面玄関が開き、そこから紅ン暴が歩いてやって来た。
「あっ、紅ン暴さん。こんばんは」
「やっほ」
「こんばんは。予定時刻より早めに来たのか、いい心掛けだ。さて、此処で立ち話は目立つから校内に入ってくれ」
「あ、あの……私、学校に入っていいんでしょうか……?人間ですし、不法侵入になるのでは……」
「そこは心配ご無用。今日の晩、寝静まった校長先生の夢の中で『学校に客人を2名招き入れるから許可が欲しい』と伝え、『大丈夫』と相手からお許しの許可を得た」
「それ許可した内に入るんですか……?」
「まあまあ、別にいいじゃん。もしシラちゃんが人に見つかりそうになったらしっかり隠すからさ」
「わ、分かりました……」
私達は紅ン暴の案内で正面玄関から校内に入り、近くの1年1組の教室に入った。
「懐かしい……」
並べられた小さな机、掲示されている拙い作品を見て、私が1年生だった頃をしみじみと思い出していた。
その間に紅ン暴は教壇に上がり、カゲリは外をじっと眺めていた。
「早速本題に入る。今回、妙な者共を倒して欲しいと依頼したのだが……カゲリ、夢居、私が昼間に話した内容を覚えているか?」
「はい。確かその妙な物は3つ確認されてるんですよね?1つ目は理科室の人体模型、生徒の1人が模型に叩かれたと先生に報告して発覚。2つ目は体育館のバスケットボール、何処からともなく飛んできたボールが生徒の顔に直撃……」
「そうだ」
「最後の1つは準備室にある石膏の全身像、これに関しては噂や状況からして先生を殴った可能性があり、更に夜間に外で歩いてる姿を目撃されているとの事です」
「完璧だ。夢居はしっかり話を聞いていたようだな」
「念の為復習もしてきました」
「素晴らしい!夢居は優等生だな」
自分の命に関わるかもしれない問題なので頑張って覚えてきました。
「へぇー、つまり今の所被害を出してるのは実体のある物だけって事ね」
「……カゲリさんもあの時一緒に話聞いてましたよね?何で初めて聞いたみたいな反応してるんですか」
「シラちゃんが真面目に話聞いてたからわたしは程々でいいかなって……」
(カゲリさん、下手したら私の身に危機が及ぶかもしれないって事をすっかり忘れているのでは?)
「カゲリ、そんな事をしていたら夢居に多く負担が掛かるではないか」
「じょーだんじょーだん、ちゃんと聞いてたって」
(ホントかなぁ……)
「話を戻そう。先程夢居が述べた通り、例の3体が学校で人間に被害を出している状況だ。だが、奴等の動力源も、なぜ人間を襲うのかも何もかもが分からない。しかも奴等は私がパトロールしてる時は一切動かないのだ」
「人間しか襲わない謎の力……不気味ですね」
「更に奴等はこの『平目小学校七不思議』の中の「助けを求める人体模型」「幽霊バスケットボール部員」「動く石膏像」を模範したかのような動きをしている……今の所分かっているのはこれだけだ。夢居、カゲリ、何か質問はあるか?」
「質問です」
「夢居か、何か不明な点があったか?」
「何で小学校に等身大の全身像があるんですか……?」
「……あれは平目小学校の卒業生であるアーティストが寄贈したものだ」
(凄い卒業生だ……)
「はい質問」
「カゲリか、どうした?」
「この学校って警備員さんはいる?」
「勿論いる。だが奴はこの時間帯には……」
「こらっ!」
「うわっ!?」
真面目に紅ン暴の話を聞いていると、突然教室に知らない人の叱る声が。
「君、1人でこんな時間に何してるの?」
声のした方を見ると、そこには懐中電灯を所持したシャツ姿の青年が1人。明るい茶髪で優しそうな彼の顔には怒りと困惑の表情が垣間見えている。
「わあ、びっくり」
「(紅ン暴さん、あれってまさか……)」
「奴は警備員だ!まさかこんな時に来るとは……!」
「け、警備員……!?」