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5話 相談屋さん

 冥界にあるカゲリの家に住み始めて数日が経過した。


「あ、カゲリさんおはようございます!」


「おはよ、今日の朝ごはん何?」


「トーストとベーコンと目玉焼きです」


「いいね」


 寝ても覚めても真っ暗な世界に少しは慣れた。朝昼晩は手料理だったり既に完成した物を買ってカゲリと一緒に食べ、数時間は誰も来ない駄菓子屋で学校の勉強しながらの店番、後の空いた時間は読書をしたりカゲリが暮らしている町をカゲリと一緒に見て回ったりした。


 カゲリは優しいし、自分の時間は十分に取れるし適度に運動出来る、そして何よりもアイツの妨害が一切無い。今の生活はそれなりに充実してると言っても過言では無い。


「はい、これカゲリさんの分」


「はいよっ」


 今は朝食の時間、2人分の簡単な食事をカゲリと一緒にノスタルジー溢れる居間に運ぶ。ちゃぶ台に向かい合わせに座り、黄色い電灯に照らされた朝食を前にいただきますの合図をして一緒に食べ始める。


「おいしい。朝食食べてるって感じ」


「気に入ってくれたみたいで良かったです」


 カゲリはどんな料理も美味しそうに食べてくれる。なのでつい手作りの料理を作りたくなってしまう。


「……シラちゃん、たまに寂しくなったりしない?」


「えっ?」


「ほら、今は家族や友達と離れて暮らしてるでしょ?少しだけなら皆んなに会いに行けるけど……どう?」


「大丈夫です!今交流がある友達は同じ学校に通ってるってだけの仲ですし、私がお世話になっている両親は義理なのでいつか離れないとって思ってました!」


「そうなの?……今の子ってそんなドライな感じなの?」


「別にドライってわけでは……ほら、最近はスマホでいつでも会話出来ますから。いつでも会話出来ると思うから会わなくても大丈夫って感じですかね?」


「そっか。でも会いたくなったらわたしに言ってね」


「ありがとうございます!」



 カゲリと取り留めのない会話をしながら朝食を終え、空いた皿を台所のシンクで洗う。


「シラちゃん」


「はい、どうしました?」


 皿を全て洗い終えた所で、ちゃぶ台の上を拭き終えたカゲリが私に声を掛けてきた。


「今日は相談屋さんの方の仕事してみよっか」


「相談屋さん……ですか?」


 此処に来てから仕事はずっと駄菓子屋の店番のみで、相談屋の仕事に関るのはこれが初めてだった。


「今日の依頼はシラちゃんが居ないと出来ないやつでさ、どうしても来て欲しいんだよね」


「私でないと出来ない依頼……?」


「そうそう。お給料は弾むからぜひやってほしくて……因みに、どんな危ない事があっても絶対にわたしが守るから大丈夫だよ」


「危ない事が起こる事前提なんですか……?まあ、カゲリさんがしっかり守ってくれるなら試しにやってみますが……」


「ありがと。じゃ、とりあえず依頼者が来るまで居間でのんびり待ってて」


「分かりました」



 そして数十分後……



「失礼する」


 私が居間で本を片手に寛いでいると、駄菓子屋に1人の背の高い人物が現れた。


 真っ赤な衣類に真っ赤な頭巾を被ったガタイのいい男で、顔には立派な髭を生やした、まさに『だるまさん』のような見た目をしていた。


(この人、雰囲気からして明らかに人間じゃない……)


 そして何処か先生を連想させる立ち振る舞い。


(よく分からないけど、この人に対しては物凄く丁寧に接しないといけないような気がする……)


「いらっしゃいませ……」


「うむ」


「あ、いらっしゃい。もしかして依頼者?」


 私が挨拶をしていると、奥からカゲリが現れて私の前に割って入ってくれた。


「私の名は『あかぼう』。相談屋に依頼したい事があって馳せ参じた」


「今日予約していた紅ン暴さんだね、こちらにどうぞ」


「お邪魔する」


 カゲリは紅ン暴を居間へと案内し、予め用意していた客用の座布団に座らせた。


「粗茶ですが……」


 私は予め茶葉を入れていた急須にお湯を注ぎ、紅ン暴の前に菓子と共に丁寧に置いた。


「かたじけない」


 紅ン暴は私に軽く頭を下げて礼を述べ、お茶を丁寧に飲んだ。どうやら私の振る舞い方は間違ってなかったようだ。


 緊張のせいか、やたら時計の針の音が耳に入ってくる。そもそも私は何故、こんなにも気を張り詰めているのだろう。


「さて、今日はどのような依頼で?」


 ある程度落ち着いた所でカゲリが依頼の内容について尋ねた。


「単刀直入に言うと、私が世話になっている平目小学校に妙なものが現れたらしい」


「妙なもの?」


「例えるなら『学校七不思議に擬態した何か』と言った所か……その妙な物は夜な夜な動き出しては学校を我が物顔で徘徊し、人間を見つけたら問答無用で襲い掛かる……という噂だ」


「何もしてないのに襲い掛かるの?」


「寧ろ奴らは人間を襲う事自体が目的とも考えられる。そして人間以外は相手にしないらしく、妙な者共は私の前には一向に姿を見せん。だから校内に流れる噂と、被害に遭った後の状況しか知らんのだ」


「それは厄介だね」


(人前にしか姿を見せない……だから今回の依頼は私が必要だったんだ……)


「今の所は私が夜中に巡回をする事で奴らの暴走を抑えているつもりだ。だが、奴らの気配も存在も、何もかもが分からん状況……解決の糸口は一向に見つからず困り果てていた所だ」


「ふんふん。つまり紅ン暴さんは「学校に居座る妙な奴ら」をわたしに追い払って欲しい、と……」


「そうだ。児童の学び舎を訳の分からん奴らのせいで台無しにされたくない、一刻も早く解決して欲しい所だ」


「分かった、じゃあ今日の晩に学校行くね。時刻はいつにする?」


「噂では奴らが活発になるのは午後11時辺り……なので10時頃がいいだろう」


「分かった。とりあえずその「妙な奴」の詳しい話をしたら一旦解散しよっか」


「分かった、私の知る限りの情報を全て教えるとしよう」


「うん。じゃあ話し合いの準備するからちょっと待ってて」


 そう言うとカゲリはサッと立ち上がると、私と紅ン暴を残して何処かへと走り去ってしまった。


(な、何か気まずい……)


「……そこの人間、名は何という?」


 私がうつむいて黙っていると、紅ン暴が私に名前を尋ねてきた。


「私……ですか。私は夢居、夢居白と言います」


「夢居か……よし夢居、これも何かの縁だ。私が新しい遊びを教えてやろう」


「遊び……ですか?」


「夢居は私に気遣って最大限の振る舞いを見せてくれたのでな、お前の事が何となく気に入ったのだ。だから夢居には特別に、私の「だるまさんが転んだ」を教えよう」


「紅ン暴さんのだるまさんが転んだ……?」


「やれば分かる。この家には広い中庭があったな。カゲリ、夢居を少し借りるぞ」


「あいよ」


 紅ン暴は私の意思を聞かずに話を進めていく。


(何か断りづらいし、どちらにせよやるんだけどね……)


「よし、では中庭に出るとしよう」


「分かりました……」

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