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3話 冥界

「出て来い!!」


「これ以上メーワク掛けんじゃねー!!」


「全く……シラは両親の悪いところばかり似たみたいだね」


 カゲリは川を渡って強面集団と列戸のいる河原に移動した。だが、列戸含めた周りの集団は目の前に現れたカゲリに一切目を向けない。皆んなはカゲリが見えてないのだろうか。



「……シラ。これ以上僕を困らせるのなら、こっちにも考えがあるよ」



 カゲリが列戸の前に移動した所で、急に列戸の態度が変わった。声がだいぶ低くなり、穏やかだった顔が無表情になっている。



「皆んな、シラの家に行くよ。この時間なら両親揃ってる筈だから、2人とも縛り上げて例の倉庫に連れてって。シラも居たらついでに連れてって」



「「「「おう!!」」」」


「は……?」


 列戸が指示を出し、強面集団が一斉に川を出て町のある方向に走り出した。川の向こう岸には列戸とカゲリの2人だけが残った。


「シラの前で両親を拷問して、僕に2度と逆らえないよう心に刻んでもらう。もしシラが居なかったら潰して棄てて、シラが帰る家をなくす。それでもシラが僕の前に現れなかったら、徹底的にシラの帰る家を潰そう」


「あの2人は関係無いでしょ!?しかも私の知り合いまで潰す気!?」


「本当はこんな事したくなかった。でも、こうなったのはシラのせいだからね」


「何で私のせいになるの!?おかしいでしょ!?」


 私は必死になって叫ぶが、向こう岸にいる列戸に声は届いてないようだ。


「何でもかんでも私のせいにして……!」


 今まで散々迷惑を掛けておいて、それでも私が振り向かないなら今度は私の周りにいる人達まで巻き込んで。そんな外道な真似をする列戸に我慢の限界が来ていた。


「列戸!それはもう犯罪だよ!いい加減にしなよ!!」


 我慢の限界に達した私はその場で思い切り列戸を怒鳴った。



「シラちゃんの言う通りだよ。皆んなを巻き込んで何するつもり?」



 向こう岸にいるカゲリが口を開いた。叫んでいる訳では無いのに爆音のような大きな声量で、私は思わずたじろいだ。


「……は?」


 そこで列戸はようやくカゲリを視認した。苛立ちを抑え切れない表情でカゲリをギロリと睨む。


「列戸がしようとしてる事は犯罪だよ。しかも自分の手を汚さずに周りにやらせようとするなんて最低。人間の風上にも置けないね」


「……君、シラの友達?丁度良かった、シラを呼び出す為に君も手伝ってよ」


「やだ」


「ハナから君に拒否権は無い。シラの両親と同じ目に遭わせればきっとシラは僕の前に現れる……」


 列戸はカゲリの首根っこを掴んで持ち上げようとした。だが、カゲリが持ち上がる気配は一切無い。


「ぐっ……!?君、何でそんなに重……」


 と、言い掛けた所で列戸が突然地面にズンと沈んだ。まるで落とし穴に落ちたかのように落ち、上半身だけが河原に残った。


 無事だったカゲリは下を向き、地面に沈んだ列戸をじっと見つめている。


「!? な、何なんだコレ!?」


「列戸、川の方見て」


「はぁ?!そんな事してる場合じゃ……」


「見て」


 カゲリは列戸の顔を掴んで無理矢理川の方に向けた。


「ああっ!?み、皆んな……!?」


 川上から流れて来たのは、先程川から出て行った筈の強面集団だった。彼等はボーっとしながら木の船に乗っている。


「こ、ここ何処……?」


「俺、何してんだ……」


 全員、ぶつぶつと何か呟きながら船に揺られて川下へと流れていく。異様な光景だ。


「おい!皆んなに何をしたんだ!?」


「此処で少し迷ってもらうだけだよ。勿論列戸も一緒にね」


 カゲリがそう言うと、列戸の上半身がじわじわと地面の下へと下がり始めた。


「し、沈んでいく……!だ、誰か!!」


 列戸は珍しく慌て出し、表情を歪めながら助けを求め、地面から脱出しようと必死になってもがく。


「じゃーね」


 カゲリは河原の小石の下に埋まっていく列戸から離れ、川をゆっくり渡って私の元へと戻って来た。カゲリが完全に渡り切る頃には、列戸の姿は完全に消えていた。


「い、今のは一体……アイツらはどうなったの……?」


「皆んなにはこの辺をさまよってもらう事にしたよ。少なくとも1週間くらい掛ければ素人でも外に出れるんじゃない?」


「1週間……」


「うん、列戸はもっと深い所に送ったから3ヶ月は此処で彷徨うよ。これが今のわたしに出来る限界」


「いや、十分ですよ……あの、本当にありがとうございます……」


 だが、3ヶ月経過したらアイツは再び外に出て来る。アイツが外に出たら、私を探す為に周りの人に危害を加え始めるだろう。


 誰かに関わっただけで周りの人に迷惑が掛かる。何処かでバイトしながら一人暮らしを始めたとしても、アイツはきっと私の居場所を突き止め、今度は近所の人や勤め先に迷惑を掛ける筈だ。


(これからどうしたらいいんだろう……)


 私はこれからの未来に絶望し頭を抱えた。



「シラちゃん」


「……カゲリさん、どうしましたか?」


「わたしの家、来る?」


「……えっ?」


 カゲリの突然の提案に私は驚き、カゲリの顔をじっと見つめた。


「このまま返したら、またシラちゃんや周りの人が大変な事になるでしょ?でも、わたしの家は冥界の中にあるから霊感ゼロの列戸は絶対に来れないよ」


「……冥界?」


「うん。冥界に住んでる間は私が守ってあげられるし、地上にいる皆んなの記憶を曖昧にしてシラちゃんの存在を消せば、あの列戸も周りを攻撃する事は無いよ」


「カゲリさん、皆んなの記憶を操作出来るんだ……」


「シラちゃんが知人や列戸の前に姿を表せば全て思い出しちゃうんだけどね」


「……って、それ以前に私が冥界行っても大丈夫なんですか?」


「驚くとこそこで合ってる?まあ、シラちゃんなら道にも迷わないだろうし大丈夫だよ。あと、家の近所に勉強教えてくれる学校もあるからわざわざ外にある学校に通う必要も無いし、少し歩けばスーパーやコンビニもある」


「以外と便利ですね……」


「更にアルバイト出来る施設もあるから、わたしの家で暮らしながらお金稼いで、ある程度お金が貯まったら外に出るってのもアリだと思うよ」


「成る程、それはいい案ですね」


「更に護身術を学べば、外に出ても列戸を物理でどうこう出来るよ。どう?」


 皆んなが危険な目に遭わないし、私も列戸から逃げれる。もはや至れり尽くせりだ。私は勿論すぐにでも冥界に行きたい所だが……


「でも、いいんですか?助けてくれた上に家に住まわせてくれるなんて……」


「うん。あの時助けてくれたお礼も兼ねてるから。まあ、住む条件が無いって訳じゃ無いんだけどね」


「条件……?」


「料理。シラちゃんって毎日ご飯食べないといけないよね?だからわたしの分の料理を買ったり作ったりしてほしいなって。お金は全部わたしが負担するから」


「料理……はい!よく自炊するので料理は得意です!宜しくお願いします!」


「決まりだね。じゃあ一旦帰宅して、荷物全部まとめたら此処に来て。待ってるよ」


「分かりました!」


 私は急いで川を渡り森を出た。そして自分の荷物を取りに家に向かって全速力で走ったのだった。

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