26話 怒りの紙手裏剣
『倒れるまで遊んであげる!!』
私と花子さんの試合が始まった。花子さんはケラケラ笑いながら私に向かって飛び込んできた。
(カゲリさんや紅ン暴さんの教えに則り、まずは相手を自分のペースに巻き込む!)
私は真っ暗な空に向かって人差し指を一本突き出した。
「だるまさんが転んだがやりたい人、こーのゆーびとーまれ!」
私は大声でそう一言叫んだ。
「は……?」
「ゆ、夢居さん……何やってるの……?」
人間側の応援席にいる皆んなはくちをポカンと開けて私を見つめている。
『はーい!私やるー!』
私の指に花子さんが見事に飛びついてきた。
「あっ!花子さんが飛び付いたっす!!」
「そうか!小学生は遊び盛り……だから、高校生の体力を駆使して相手が疲れるまで遊び倒すつもりだね!夢居、中々やるようだね……!」
「そんな回りくどい真似を!?絶対違うよ!?」
「高校生よりも小学生の体力の方が多い印象があるんすけど……」
「夢居さん、何をするつもりなんだろう……」
外野は私のやりたい事がまだ分かっていないようだ。
『先生も混ぜて!』
何と女性教師まで混ざってきた。どうやらどさくさに紛れて私の戦いに参加するらしい。
「あっ!ずるいよあんた!一対一のルールを守りな!」
『何の事かしら〜?私はただ、だるまさんが転んだに参加したいだけよ〜?』
女性教師は白々しい態度で雑音の抗議の声をかわす。どこまでもズルい七不思議だ。
(……よし、こうなったら2人まとめて相手してやる!)
「まあまあ雑音さん、一緒に遊ぶだけならいいじゃないですか!」
「夢居ちゃん何言ってんすか!?そもそもだるまさんが転んだって、相手に背中見せるじゃないすか!更に2人相手にするなんて……!」
「……分かった。今は夢居を信じるよ。打縁も夢居を信じて黙っときな」
「雑音先輩!?」
打縁は私を心配するが、雑音は私が何かをしようとしているのが分かったのか、この戦いを静観する事に決めたようだ。
「じゃあ2人参加だね!まずは私が鬼になるから、2人は向こう側まで行ってね!」
ますますやる気になった私は、ゲームに巻き込んだ相手2人と共に「だるまさんが転んだ」をスタートした。
「2人とも!準備はいいかな?」
『『はーい!!』』
「じゃあ行くよー!」
2人の元気な返事を聞いた私は、張り切ってだるまさんが転んだを開始した。
「だ、る、ま……」
私が律儀に台詞を言っている間、相手2人は物凄い速さで私に近付いて来るのが分かった。
『(フフフ……本当に馬鹿な子ね)』
『(私達が最初からだるまさんが転んだに参加する気なんて無いに決まってるじゃん!これがどんな作戦だろうが、相手が振り向いた瞬間を狙って全力で攻撃してやる!)』
「さ、ん、が……」
2人は問答無用で私に近付いて来る。距離はもう僅かだ。
『貰った!!』
七不思議2人は私に向かって飛び掛かった。
(今だ!!)
「転んだ!!」
私は全力を込め、最後の台詞を力一杯叫んだ。
『があっ!?』
『ああっ!?』
私の視界で動いた女性教師と花子さんが両手を構えたまま停止した。宙に浮いていた所を止めたので、中途半端な姿で床に落ちた。
『あだっ!?あ……あれ……?』
『う、動けない……!?』
2人は見事に私の技「だるまさんが転んだ」に引っ掛かった。
「ああっ!あの2人、何も出来ずに床に転がってるっす!」
「夢居……!一体何者なんだい……!?」
「夢居さん……!」
人間側の応援席の皆んなは驚きながら床に転がった2人を見つめている。
(この隙に……)
その間私は、応援席でこっそり量産した紙手裏剣をポケットから沢山取り出した。
(畳み掛けるなら今!)
私は紅ン暴の修行で身に付けた技、己の精神力を身体中に巡らせて『身体強化』を行ない、全身に力を込めた。最初は弱めで、次第に力を強くしていく。
「あなた達みたいな……!」
『な、何なの……?あの人間、急に存在感が……!』
『な、何かあの人ヤバいよ先生!どんどん力が上がってるよ!!』
「一般的なルールもモラルも無い……!!」
『何何何!?何なのお前!?』
『あっ、あんな力あるなんて聞いてないわよ……!?』
私は相手に一言告げる度に更に力を上げていく。
相手は動けない事と、軽んじていた相手がじわじわと存在感と力を増している事に恐怖を抱いているようだ。相手が私に対して恐怖を抱いた事で更に力が上昇する。
「『……そうか、あんたが妖怪退治界隈で噂になっている妖怪ハンター……!楽園潰しの夢居だね!!』」
此処で雑音が私を後押しするかのようにそう叫んだ。
「えっ?…………ああ!そうだ!そうだよ!夢居さんは人間の中では物凄い力を持ってる凄い人なんだよ!」
「……ええっ!?そんな凄い人だったんすか!?それは気付かなかったっす!!」
利子川と打縁は雑音の意図に気が付いたらしく、大袈裟に驚いて雑音の言葉に同調した。
『な、何それ……!?』
『ら、楽園潰し……!?』
このお陰で相手は更に驚き、雑音の暗示のような物も合わさって私の力が更に上昇した。
「人の困るような事を喜んでやるような妖怪は……!!!」
私も本気で怒り、此処で最大出力に達した。
『ひ、ひいぃ……!』
『ごめ……ごめんなさい……!』
2人は私の前で縮こまった。最初の威勢はすっかり消え失せている。此処で私はトドメを刺すべく、思い切り息を吸い込んだ。
「く た ば れ ーーーー!!!!」
私は力一杯に叫ぶと、全力で紙手裏剣を何枚も飛ばした。
『ひぃいいい!?!?』
『きゃーーーっ!?!?』
私の絶叫に完全に怯え切った七不思議2名は、紙手裏剣を覆う鋭い風に幾度も切り刻まれた。
私が優位にいる為か、初めての紙手裏剣の攻撃にしてはかなりの威力が出ていた。
『ひぃ……』
『な、何なのよ……もう……』
相手は息も絶え絶えだが、まだ勝敗は決まっていない。紙手裏剣を構えながら七不思議2人に近付いた。
「2人とも」
私に声を掛けられた2人はビクッと肩を震わせた。
『な、何……?』
「私はまだ戦えるけど…………2人は?」
『『ひいっ!?』』
私の言葉を聞いた切り傷だらけの2人は分かりやすく悲鳴を上げた。
『もうやめる!いちぬけた!』
『皆んなを元に戻すから!奪った魂も全部戻すから!命だけは取らないで!』
「勝負は?」
『やめるやめる!やめるに決まってるじゃん!』
『もう勘弁して!!降参するから!!』
七不思議達はもはや戦う気力は一切無いようだ。




