13話 風の力
紅ン暴と稽古の約束をしてから数日が経過した。
「夢居!もっと気合いを入れろ!!」
「はい!!」
カゲリの家の中庭にて。私は紅ン暴さんに朝から稽古をつけてもらっていた。
全身に力を込めて大声を出したり、気迫を込めて辺りをジョギングしたり、基礎的な武術を学んだりと、全体的に力を使う稽古に息を切らしながらも必死に食らいついていく。
今は声のみで相手に衝撃を与える稽古、私は目の前の紅ン暴に何度も声を飛ばす。
(どれもこれも全部、列戸から身を守る為……アイツへの恨みを燃やしながら全力で頑張る……!)
「よし!夢居、今日はこの辺にしておこう」
「はい!ご指導ありがとうございました!」
「ぬうっ!?」
私の返事に紅ン暴が思い切り後方に吹き飛んだ。
「あっ!すいません師匠!」
アイツへの恨みを乗せたせいなのか今までで1番威力が高い衝撃が生まれ、紅ン暴がひっくり返ってしまった。
「いや、いい返事だ!この調子でこれからも修行に励むように!」
「分かりました!」
今日の稽古が終わり、私はタオルで汗を拭きながらペットボトルに入ったスポーツドリンクを飲んだ。
「……夢居、明日の朝はついに学校か」
「はい。人の住む場所の近くある学校との事ですが、人間は私以外にあまり居ないそうで……」
「主に地上に住む怪異専門の学校だ。そんな所に入って来る人間の方が珍しいだろう」
「そうなんですね……」
「それにしても……夢居があのドブ川に入るのか……」
「……ドブ川?」
「いや、この言い方では語弊があったな。詳しく言うと「ドブ川の底のように治安が悪い学校」という意味だ」
「……暗がり学校ってそんな酷いところなんですか?」
「私の知る暗がり学校は地上の学校と比べたら本当に酷い所だ。だが、冥界にある学校と比べたら治安は遥かにマシだ」
「冥界ってそんな酷い所だったんですか……?」
「シラちゃーん、ちょっといい?」
紅ン暴と会話していると、家の居間にある戸を開けたカゲリが私に声を掛けてきた。
「よし、私はそろそろ失礼しよう。夢居、また明日」
「はい、また明日!」
私は紅ン暴と別れの挨拶をした後、急いでカゲリに駆け寄った。
「カゲリさん、御用は何ですか?」
「シラちゃんは明日、ドブ川に入学するってのはもう知ってるよね?」
「カゲリさんもあの学校をドブ川呼ばわりなんですか?」
「まあ、あの学校も昔よりはマシにはなってるとは思うけど……それでもまだまだ治安は悪いかもね。だから、護身術の1つでも教えないとって思ってさ」
「カゲリさん、何か教えてくれるんですか?」
「うん。シラちゃんも冥界に馴染んできただろうし、そろそろ本格的に教えようと思って。今日は風の使い方教えたげる」
「風?風って、その辺でよく吹いてるあの風ですか?」
「そうそう。風を使いこなせれば、離れた所から攻撃したり強風吹かせて防御に使ったり、追い風にして早く走ったり出来るよ」
「攻撃に使う事前提なんですね……でも、風を使うなんて、まるで魔法みたいですね……!」
ファンタジーのような力を使えるかもしれない、そう思うと何だかワクワクしてきた。上手く使えば空も飛べるのではと僅かに期待も寄せる。
「ある意味魔法みたいなものだね。で、シラちゃんはこの後時間ある?」
「無いです!」
「決まりだね。じゃあ、とりあえず此処よりもっと広いとこに移動しよっか」
「分かりました!」
私は軽く身支度を整えると、鞄を持ったカゲリと一緒に家から出て冥界の中のレトロな町を歩き始めた。
数十分後、芝生の生えた広い公園に到着。
「此処でいいかな」
カゲリは辺りに誰も居ない事を確認すると、持って来た鞄の中から1枚の赤いディスクを取り出した。
「それってフリスビーですか?」
「風を見るには丁度いい道具だよ、見てて」
そう言うとカゲリは、手に持った赤いフリスビーを遠くに向かって思い切り投げた。
カゲリの手から離れたフリスビーは遠くまで綺麗に飛び、そこから軌道を何度も変えて上空や下すれすれを飛び回り、更に宙返りまでした。
「凄い……!」
「こんなもんかな」
カゲリが手を上に掲げると、フリスビーは物凄い勢いで帰ってきた。そしてカゲリの手に綺麗に収まった。
「おぉ〜!」
私は無音でフリスビーを受け止めたカゲリを尊敬の眼差しで見つめた。
「どう?」
「カゲリさん凄いです!フリスビーがあんなに生き生きとしてる所、初めて見ました……!」
「いやー、それほどでも……さて、シラちゃんのやる気も上がってきた事だし、いよいよ本格的に風の使い方を教えるとしますか」
「お願いします!」




