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11話 だるまさんが転んだ

 約数十分後……


「この勝負のポイントは、とにかく相手に考える隙を与えない事だからね」


「分かりました……」


 私はカゲリと紅ン暴と一緒にグラウンドに移動し、最後の確認をしていた。


「セリフは絶対に噛まないでね。違和感を感じさせたらそこからバレるかもしれないから……あっ、髭葉が来たよ」


「いよいよですね……」


 私は更に緊張し、少し体が震えた。


「大丈夫、失敗しても私達がカバー出来るから」


「夢居、全力を尽くせ」


「分かりました……!」


「ほら、分かったらさっさとスタンバイして」


 カゲリと紅ン暴に背中を押された私は、作戦を決行する為に無表情でグラウンドの中央に立ち尽くした。



「見つけた……」



 暫くして、ようやく学校から抜け出した警備員が私のいるグラウンドにやって来た。


「わざわざ俺を待つとはな。村上、この後どうなるのか分かってんだろうな……?」


「…………」


 私は警備員に背を向けたまま何も言わない。


「…………?」


 警備員は流石に不審に思ったらしい。


「一体何を……」


 キーン コーン カーン コーン……


 と、警備員が発言した辺りで学校からチャイムが流れ始めた。


「……何だ?設備の故障か?」


 キーン コーン カーン コーン……


 警備員はチャイムが流れてくる学校の方を見つめる。その間もチャイムは鳴り続け、周囲に響き渡っていく。





「村太くん」


「うわっ!?……えっ?」


 そんな警備員、髭葉を背後から呼ぶ少女の声。警備員は突然声を掛けられた事に驚き、遅れて本名を呼ばれた事にも驚いたようだ。


「髭葉村太くーん、何ヒビってんの?」


 警備員が振り向いた先には、スカートを翻しながら無邪気に笑うカゲリの姿があった。


「は?お前何で俺の名前……」


 カゲリが存在感を出したのと、髭葉自身が少し動揺して心に不安がよぎった結果、髭葉の目にカゲリの姿が見えるようになったようだ。


「そもそもお前誰だよ……?」


「村太くんもしかして寝ぼけてるの?同じクラスのユリだよ」


「ユリ……上田ユリか?」


「だからそう言ってるじゃん!」


 カゲリは声色を変え、全体的に感情を含みながら髭葉と話をする。


「あぁ……ごめんユリ、周りが暗すぎて分からなかった……かな?」


「もう、今日ダルマの赤ん坊の噂を検証するために学校に集まろって、村太くんが言ったんでしょ?」


「あ、ああ……そんな話した事あったな……それ、いつの話だっけ?」


「今日の昼休みの時に話したじゃん!」


「あ、ああ……確かにそうだったな……」


 カゲリに丸め込まれたのか、髭葉の脳は過去に肝試しをした日にタイムスリップしたようだ。しかも髭葉は、目の前のカゲリがユリの姿に見えているらしい。


「む、村太くん……これ、本当にやるの?」


 そのカゲリの隣には見知らぬ小学生の男の子に化けた紅ン暴が、気弱そうにしながら髭葉に声を掛ける。


「何だサトル、もうビビってんのか?そんな嫌なら1人で帰れば……ん?ユリの隣にいるのは誰だ?」


 先程と髪型を変えてカゲリの隣に立った私を、髭葉は不思議そうに見つめた。


「あ、村太くんはまだ会った事無かった?この子は今日隣のクラスにやって来た転校生!怪談が好きって言ったから私が連れて来たんだよ!」


「ああ、隣のクラスに来たっていう背の高い転校生か……ってユリ!初対面のやつ連れて来てんじゃねーよ!この話は3人だけの秘密って言っただろ!」


「いいじゃんいいじゃん!こういうのは多い方が楽しいでしょ?」


「人数多すぎたら逆に赤ん坊が来れなくなるかもしれないだろ!?そういうのはちゃんと俺の許可取ってからにしろよ!全く……」


「ごめんごめん!」


「……まぁ、来たもんは仕方ないし、そろそろ始めようぜ」


「はーい!」


「大丈夫かなぁ……」


 髭葉がこの場を仕切り出し、ようやく場が動き始めた。


「じゃあ早速「だるまさんが転んだ」しようぜ。ジャンケンで負けた奴が鬼だからな」


「えっと……だるまさんが転んだをしてると、学校のだるまさんの赤ん坊さんが混じってくるんだっけ……」


「そーだよ。ほら、サトルもさっさと手を出せよ」


 4人は輪になって右手を出し、ジャンケンの姿勢を取った。


「最初はグー、じゃんけんぽんっ!」


 ジャンケンの結果……私が鬼になった。


「転校生か、じゃあお前が鬼な。あの木の前に立って、俺たちがはじめの一歩やったらゲームスタートだからな」


「はーい!」


「は、始まっちゃった……」


 3人が盛り上がる中、私は無言のまま木の前に立った。


「はじめのいーっぽ!」


 3人が足を踏み出したのを皮切りに「だるまさんが転んだ」が始まった。


「だーるーまーさーんーがー」


 私が声を出している間、背後の3人は楽しそうにしながら私に近付いてくる。


「こーろんだっ」


「わわっ!」


 私が台詞を言い終え、背後を振り返った。髭葉の隣にいた山下がバランスを崩して派手に転んだ。


「はははっ!始まってからすぐ転ぶとかだっせー!」


 髭葉はゲラゲラ笑って目線だけを山下に向ける。


「サトル、少しは……あれ……?」



 髭葉の隣に山下の姿は無く、代わりに大きめのだるまがゆらゆら揺れていた。



「山下くんこーろんだっ」


「な……なんだ……これ……?」


 だるまを見つめて困惑する髭葉を無視し、ゲームを続ける。


「だーるまさんがー」


「おっ、おい!ちょっと待て!サトルが!サトルが消えた!」


 髭葉は必死になって私に声を掛けるが、無視して遊びを続ける。


「一旦ストップ……」


「ころんだっ」


「キャッ!?」


 次は髭葉の後ろにいた上田が動いた。


「上田ちゃんこーろんだっ」


「ユリ!大丈夫か!?」



 ユリは髭葉の声掛けに一切反応しない。ただ、何かがユサユサと揺れるような音だけが聞こえた。



「だーるまさんがー」


「ユリ!……嘘だろ?」


 髭葉は転校生が前を向いた隙にユリの方を振り返った。


「ユリまでダルマに……何だよこれ……!?おい!転校……」


 変わり果てた上田の姿に髭葉は怯えながらも怒り、転校生に怒鳴りかけた所でピタリと止まった。


「……隣のクラスに来た転校生って男……だったよな?」


 髭葉は転校生の違和感に気付いたらしい。それを指摘する声が震えている。


「おい、お前……」


 髭葉の顔が引きつり、身体を震わせながら転校生のいる方を向いた。




 その髭葉の目の前には目を見開いた転校生の顔があった。




「ダルマサンガコロンダッ」



 転校生が早口でそう唱えた瞬間、髭葉の身体がピタリと動かなくなった。


「あ……?」


 指一本動かせなくなった髭葉。更に視界が暗転し、辺りからひそひそ声が流れ始める。


「…………くん……んだ……」


「……村……くん……」


「ダルマッ」


「ユリちゃん……教科書破っ……「ルマサン」髭葉くん……」


「上田さ……のランド「ロンダッ」セ……蛙「ダルマ」入れた村太くん……」


「先生を「ダルマサン」転ばせた髭葉村太「コロンダッ」くん……」


 妙なノイズが混じったひそひそ声は、次第に大きくなっていく。


「先生をコロンダッ殴った髭葉くん……」


 声のトーンは変わらないのに音は大きく、うるさくなっていく。


「や……あ……!」


 髭葉は必死に声を出すが、体は全く動かない。顔も固まっているので喋り辛そうだ。


「学校に忍び込んだダルマサッ子どもを驚かせて……」



「やめろよっ!!」



 ようやく喋れるようになった髭葉が怒鳴り、目の前の視界が開けた。



 暗い放送室、部屋の奥に丁寧に置かれただるま。



 髭葉は顔を強張らせ、じっとだるまを見つめた。





「ダ ル マ サ ン ガ コ ロ ン ダ ! !」





 髭葉の視界いっぱいに紅ン暴の顔が写り、一際大きな怒声が髭葉の全身を大きく揺さぶった。



「─────っ!?────っ!?」


 怒りに満ちた紅ン暴の顔面を見た髭葉の顔は完全に青ざめ、恐怖で染まり切っていた。


 髭葉はパクパクと口を動かして声にならない悲鳴を上げたかと思うと、気絶してその場に倒れてしまった。

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