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誰が為の戦記  作者: ナイアーラトテップ
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第三話 アイムホーム?

 運命の出会いから半日が過ぎた。アルスは予め定められていた集合ポイントにたどり着くと、少し困った顔をした。


――大人気ない人たちだ…


 森林の中に密かに造られた野営地、天幕などは木々の合間を縫うように貼られているが、人影は見当たらない。この場所は本隊が配置されていた右翼側に近い、よって然程急いでいたわけでもない自分が真っ先にたどり着いた可能性はない。となると…


 まずは木々に目をやる。どうやら手心は加えてくれているようだ。次に地面を観察する。粗忽者がいるようだ。


 少し面倒くさいが、よくあるじゃれ合いだ。怒ることでもない。そう嘆息するとひとまずは、木々の間に張り巡らされたワイヤートラップの解除に取り掛かる。


 おっと、我が兄弟達は性格がいやらしい。単純なものだとは思っていなかったが、三段重ねに加えて頭上にも仕掛けてあるとは。この程度は問題なく解除できると信頼されていると見るべきか。


 我慢できなくなったのか、近くの地面から微細な振動を感じる。息は殺しているが、これでは意味がないな。いや、今行われている行為自体ほとんど意味は無い遊びのようなものだ。


 アルスは面倒くさくなり、揺れる地面に近づいた。これで釣れるだろう。


 予想通り、その瞬間に地面から小さな影が飛びかかってきた。かわす気も無いので、そのまま好きにさせる。


「アルス捕まえた!」


 捕まえたんじゃない。捕まってあげたんだと思う自分は、やはりまだ子供なのだろうか。そんなことを考えながら地面に横たわり、胸の中の存在をぐしゃぐしゃに撫でてやる。くすぐったそうに身を捩る様子に目をやった。


 そこにいたのは想定したとおりの人物であった。自分と同じかそれより少し年下に見える少女。自分と同じ銀髪だが少しグレーが混ざった、少女にしては短めの髪が自分の手慰みによって少し跳ねている。ヘーゼルを思わせる瞳と目が合った。


 「子供扱いしないで!」


 子供だろうにと思いながらも、自分も人のことは言えないと自嘲する。胸の中にいる少女の名はアウラ。自分の(おそらく)血の繋がらない妹にして同僚だ。年齢は1つ下だと聞いている。おそらくというのは、互いに孤児であり団によって拾われた身だ。わざわざ、いつどこで拾われたのか聞かされていないし、こちらも興味はない。もし一緒に拾われたのなら、その程度の説明はあったであろう。そういう事だ。


「いつもは木の上にいるのに、モグラになったのか?」


 そう軽口を叩くと、少女は猫のような笑みを浮かべた後、真剣な表情になった。


「倦怠期?を避けるためには、サプライズが必要」


 誰だ、そんな事を教えたのは。思い当たる顔しか浮かばない。基本的にこの団にはデリカシーというものは存在しないのだ。少女に文句を言っても仕方がないので、木々に声をかけることにする。


「隠れて笑ってないで出てこい、ろくでなし共!」


 そうすると、周囲の木々から次々に人が降りてきた。


「すまんな坊主。戦場には娯楽が少なくてな」


 笑いながら声をかけてくる細長い体躯に目も細い男。首謀者はやはりこいつかと最早諦観に身を委ねるが、儀礼的に抗議の声を上げる。


「おいおっさん、趣味が悪いぞ」

「おっさんじゃない、おにいさんだ」


 被せるように無駄な注文をつけてきた。自分より10歳以上も年上ならおっさんで十分だろう。それに、自分で遊ばれた恨みもある。


「機嫌直せよ。可愛いお顔が台無しだぜ」


 別の方向から声がかかる、男のような口調だが、れっきとした女性だ。ただし、中身はおっさんだけどな。


 「このお遊びは大隊長二人が主催か。戦場ではずいぶん暇していたようだな」


 今回の主犯は、団に二人しかいない大隊長の二人ともだったか。いつもは自分の事を子供とからかうくせに、どっちが子供なんだかと嘆かずにはいられない。


 アルスの所属する傭兵団「エインヘリヤル」は団長を頂点として、その補佐をする副長が控え、その下で二人の大隊長が実働部隊を仕切っている。いわば団の要となる二人だが、共通する趣味はアルスをからかうことだ。


 細目の男は第一大隊長のセルゲイ。黄緑色の癖毛を少し伸ばし後ろで結んでいる、一見頼りなくも見える優男。しかし、部隊指揮から工作活動、直接戦闘にいたるまでおおよそ苦手なものがない、何をやらせてもハイレベルに仕事をこなす仕事人だ。


 おっさん女は第二大隊長のイチカ。性格とは裏腹な見た目をしており、艶やかな黒髪を左右に流しそのまま下ろしている。東方にある島国であるミズホの国の出身であるらしく、刀という珍しい獲物を使っている。彼女は部下の面倒見が非常に良く、人望が厚い。よって、当然指揮能力に優れており、個人の武勇も団内屈指であろう。切り込み隊長と呼ばれるのも当然のことか。


 他にも十数名の姿が見えるが、今回の戦争に参加したのは団の半分に上るおよそ1,000人。安否は心配していないが、この場に集っていない理由は気にかかる。


「他の皆は?」


 そう問いかけると、意外なところから返答があった。我が妹からだ。


「プランZだって」


 簡易なものであるが、団内の符丁だ。想定外の自体が発生したので、団長が自ら全部隊を率いて臨機応変な対応を取るという意味である。


 「大隊長二人が、こんなところで遊んでいていいのか?」


 当然の疑問を口にする。今最も団長の側で必要とされている人材であるはずだ。しかし、二人は答えず薄く微笑んでいる。となれば、この場に大隊長二人がいることに、何らかの意味があるのだろう。


――まだ今回の戦争は終わっていないな


 そう判断し、瞳で問いかけると、二人は満足したように頷いてみせた。この場にいるメンツを考えると、与えられる任務は少数で、そして武力が必要とされるものだろう。潜入及び戦闘を伴う工作活動。まずそれで間違いはない。


 そうと決まれば状況を把握しつつ、身体を休めることにしよう。そう考えた俺は、考えがまとまることを待っていたであろう大隊長二人と共に、天幕へと向かうことにした。

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