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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第三章 アンデッド霊園屯あふれそう
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第97話 読みは当たり

 中央区郊外の山の裾にある霊園に一台のバイクがエンジン音を響かせやってきた。夜の静寂が包む暗い場所に人気はなく、崖の出っ張りを利用した4台停められる狭い駐車場に車は一台も停まっていなかった。


 適当な場所でバイクを停めると、祠堂しどうはエンジンを切った。途端に静寂が戻ってくる。霊園にはアンデッドの気配がなかった。


「ここだけ何もない?」


 祠堂しどうはフルフェイスを取って、小さな霊園を見渡す。霊魂が数体浮遊しているが、そのくらいは通常範囲内だ。もう外に出てしまったのかと結界の構築を確認するが、破られた痕跡はない。


 一つ目め二つ目の霊園はアンデッドであふれかえっていた。ゴースト一体の内部に魔法陣が埋め込まれており、破壊するとアンデッドが消失した。

 ここもそうだろうと思っていたが、異変はみられない。


 情報に誤りがあったのかと首を傾げる祠堂しどうの後ろで、ヘルメットを外してバイクに置いた息吹戸いぶきどがリアンウォッチを確認する。数秒してから、あっ、と声をだした。


祠堂しどうさん。ここはカミナシ第二課のメンバーが片づけたって追加でメールが入っていた」


「なるほど。無駄足だったか」

 

「確認遅くなってごめん」


 簡単に謝ると祠堂しどうが吃驚したように数歩下がった。いつものリアクションだと息吹戸いぶきどは気にも止めない。


「誰もいないから第二課と入れ違いみたいですね。状況聞きたかったんだけど、残念」

 

「これからどうするんだ?」


 祠堂しどうが霊園を隅々まで眺めながら問いかける。指令内容は終了したので、帰路についても良かったが、彼女が別のことをするなら付き合うつもりでいた。


 そうだなぁ。と相槌を打ちながら、息吹戸いぶきどは時刻を確認する。最初の霊園にアンデッドが出没して1時間50分経過していた。

 もしかしたら、と息吹戸いぶきどは霊園に漂う霊魂に鋭い視線を向けた。


「私は霊園の様子をみたいから、このまま待機する。祠堂しどうさんは面倒なら帰ってもいいよ。一人で勝手に帰るから」


「はぁ。面倒だが、禍神まがかみ従僕じゅうぼく関連は小さな事でも見過ごせない。気になる事があるなら付き合うぞ」


「そう。それなら少し付き合ってもらうかな」


 静かに呟いた息吹戸いぶきどの言葉を聞いて、祠堂しどうは顎に片手を置いた。頬と唇が緩まないように手にクッと力を込める。傍からみたら考え事をしているポーズのようだ。


「予想が当たってるなら、もうじきアンデッドが召喚されるはずなのよ。それを一緒に目撃してもらいたい。私とは違う視点も必要なんだよね」


「どういうことだ?」


 祠堂しどうは訝しげに聞き返しながら、両手を降ろして腰に手を当てる。対して、息吹戸いぶきどは腕を組みながら上半身を左に大きく傾けた。そのまま左右にゆらゆら動かす。ストレッチをしているような仕草だった。


「夜から続くアンデッド出没間隔は二時間。でもここへきて間隔が一時間に減った。そして、玉谷たまや部長からから新たに発生したと連絡があったのは50分前」


「それが?」


 息吹戸いぶきどの上半身がピタリと止まり、真っ直ぐ伸び上がる。


「さっきのゴーストに仕込まれていた魔法陣がタイマー式に発動するなら。そろそろ次のアンデッドが登場してもおかしくないなーっていうこと。あの漂う霊魂のどれかに術式が組み込まれていてもおかしくないでしょ」


 とはいえ、今は何も視えないけど。と小さく呟く。

 裸眼でみても異変はない。活動中でないと見つけられないようだ。

 まるで潜伏期間だな。と息吹戸いぶきどは苦笑いを浮かべる。


「なるほど。ここの霊魂三体のどれかが、新たにアンデッドを召喚するかもしれない。って言いたいんだな」


「その通り。だからちょっと待ちたい」


「分かった」


 そこで会話を切り、二人は霊園近くの林に身を隠し観察することにした。小声で話すこともあると思い、息吹戸は一メートル間隔の距離をあけ、祠堂の真横にしゃがみ込む。

 

 あのまま駐車場で観察しても良かったが、誰か居たら発動しない可能性もあるので念のために隠れている。


 明かりも消しすと常闇とこやみだ。薄暗い街灯の周囲だけアスファルトと野草を照らし闇から浮き上がらせる。

 時折、緩やかな風が木の葉を小さく音を鳴らす音に混じり、静かな場所なので耳鳴りを感じる。

 時間がゆっくりと過ぎていくよう感じる。

 霊魂三体の動きは変わらない。ふよふよ浮遊しているだけだ。


 時刻を確認しようとリアンウォッチを見ると、玉谷たまやからメールがあった。件名が『よくやった』なので、最初に送ったメール内容が解決の糸口になったと思われる。

 本文を確認しようと思ったが


「おい。見て見ろ」


 祠堂しどうの声で視線を霊園に向ける。


 一体の霊魂、ゴーストの形が変化しはじめる。腹部が光って魔法陣が浮き出てきた。

 すると映像を合成したような歪んだゾンビとグールが大量に浮き出た。

 と、思った直後、世界に馴染んで重量感を得た。


 魔法陣が発動したゴーストは色を失くしたように透明になって夜空に溶け込んだ。すいっと上空に浮かび上がったのが見えたが、すぐに見失った。肉眼で認知は困難だ。


「ファウスト現身。読みはアタリだな」


「そだね」


 と、短く返事をして立ちあがる。メールの内容確認はあとにしよう。今はこちらが気になる。

 再度、ゴースト姿を探すが、目を皿のようにしても見つけられない。


「ううん、見えない。これはゴーストに気づかないなあ。ステルス機能すごすぎる」


「だから討伐を擦り抜けることができたんだな。そして定期的に召喚を行った。目的は分からないが、戦力の衰退は狙っていたのは間違いない。カミナシはまんまと術中にはまったというわけだ」


「その通りだね。皆、大分疲弊ひへいしてたから、ここら辺でドンっと本命がくる可能性高いわ」


辜忌つみきの幹部の内、誰が企てたのか調べる必要がある」


辜忌つみき確定?」

 

「当然だ。他の雑魚ならもっと雑ですぐ足がつく。こんな風に正体を欺きながら根を張る計画を立てるのは辜忌つみきしかあり得ないだろうが!」


 祠堂しどうは当然のように言い放った。敵を見つけたように爛々《らんらん》した眼差しでこちらを睨む。


 そうなのか。と、返事をしながら息吹戸いぶきどは呆れながらに眺めた。


(この人、息を吸うように仕事やってるんじゃ。ワーカーホリック(仕事中毒)?)


「そうすると、無傷で術式を手に入れる必要がある。こちら側が幻術に気づいてゴーストを退治しようとする予想はしているはず。ゴーストの核に絡めるように術式を組みこんでいる上、幻術魔法陣が自力で逃げようとしたことから、その場に証拠を残さないつもりだな。俺の攻撃だと加減が難しいから一緒に壊してしまう。さっきも試してみてダメだったし……」


 ゴーストを睨みながらブツブツと独り言を呟いていた祠堂しどうは、意を決したように息吹戸いぶきどに振り返る。


「ゴーストの腹にある魔法陣を無傷で手に入れたい。ファウスト現身、少し手を貸せ」


読んで頂き有難うございました。

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更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白かったらまた読みに来てください。

物語が好みでしたら、何か反応して頂けると嬉しいです。


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