第9話 儀式の攻略法を探せ
「それで、俺は何をすればいい?」
緊急性が高いため祠堂はターゲットを『私』から魔法陣へ変更する。
「なにをすればいいかな?」
『私』がオウム返しに聞き返すと、祠堂はゆっくりと振り向いて、目を白黒させた。
「……ふざけてんのか?」
「そんな風に見える?」
「ああ」
あっさりと頷かれてしまい、『私』は返答に困った。
ここに来たばかりで本当に何も知らないと一から十まで説明したところで、相手に一切通用しないだろう。そればかりか、遊んでいるとかふざけているといったマイナス印象を与えるだけである。
(そもそもこれは夢だ。適当なアドリブでなんとかなるはず。それにこの人がお助けキャラなら役に立ってくれるはず。戦闘に参加しなくても、攻略のヒントくらいくれるかもしれない)
なので、アプローチの方法を変えてみる。
相手の考えを聞くついでに、祠堂に何ができるのか探ることにした。
「ヤンキーお兄さんはどう考える? 教えてよ」
「ん……んー?」
祠堂は耳を疑って唸った。
彼の知る『彼女』と今の『彼女』の姿がどうしても結びつかない。
「俺に聞くのか?」
「聞いてますが?」
『私』から不思議そうに問いかけられたので、祠堂はますます首を傾げた。頭の上に疑問符が飛び出してしまう。
『彼女』は博識であった。常に敵の動向を推測して完膚なきまでに叩きのめす。
だが今はどうだろうか。新人のように状況を眺めるだけに留めている。
散々原因を考えた結果、これが新手の揶揄いだと祠堂は気づいた。突っぱねても良いが、あとで答えられなかったことを揶揄される恐れがあるため、気乗りはしないが正直に答えることにした。
「ったく、また俺の知識を試しているんだろ。基本知識すぎて間違えようがないぞ。罪を重ねた人間、もしくは異界の神……禍神に魅入られた人間の集団を辜忌と呼ぶ。あれは異界の神を召喚する術だ。実行者は末端のやつら。トカゲのしっぽ切りでよく使われる使い捨ての駒だな。あいつらも生贄として使われるんじゃないか?」
『私』は「へー」と頷いて窓から見える足を指し示した。
「ならあの足は、異界の神ってこと?」
「そうだ。この世界を侵略しにきた禍神だ」
(禍神ってことは邪神だね。侵略するのに神様が動くなんて豪勢な気がする。世界戦争がある設定で、辜忌っていうのはスパイ組織みたいなものかな)
『私』は黒いローブの動きを見てから、白いローブに視線を移す。
体格の違いはあるが、顔まですっぽりと隠れるフードを被ってうつむいているため、男女の判別ができない。
「その禍神を呼び出すのに生贄が必要で、津賀留ちゃんが選ばれてるってことか。白いローブ集団のどこかにいるんだ」
「そうだろうな。禍神の姿は出ているが不完全だ。条件に合う生贄かどうかチェックしているんだろう」
「まだ間に合う?」
「ギリギリだが間に合う。おそらく禍神は、生贄を全て吸収して実体を得るはずだ。一人でも欠ければ、術は破綻して送還される」
祠堂がにやっと笑った。
『私』は「そんなもん?」と首を傾げる。
「降臨は現世において最も複雑な術だ。生贄を選り好みするってことは、あれは気難しい禍神なんだろうよ。気難しいのは条件を完璧にしなければ成功しないってことだ。つまり一人でも魔法陣から遠ざければ降臨は不可能となる。大掛かりな降臨術だが、攻略は簡単だ。俺たちだけでも問題ない」
「へぇ。お兄さん詳しいね」
『私』が何気なく褒めたら、祠堂はムッとして腕を組んだ。
「馬鹿にしてんのか?」
「してない、してない」
常にマイナスなイメージとして捉えられているようで、『私』は前途多難だなと感じてしまう。
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