第8話 屋上召喚会場
その階段は短い通路に到着した。
重苦しい空気を孕んだ通路を進んで突き当たりまで進むと、ドアノブがついた茶色いドアがあり、その横にある小窓から屋上の様子を観察できた。
空の色は赤、黄色、緑のグラデーションで、光の幕がオーロラのように揺らめき、雲が低くて渦を巻いている。空だけに注目すれば素晴らしい風景であった。
しかし、光の幕を作りだしているのは、屋上に描かれた巨大な二つの魔法陣であり、サーチライトのように輝く光がスクリーンに空を投影していた。
屋上は平坦で広々としているが、安全のための柵がなかった。
魔法陣は手前と奥に二つ描かれており、数十人がその周囲を取り囲んでいる。全員、フード付きローブで頭から足先までを隠していた。
違いと言えば、黒いローブが魔法陣の外に立ち、白いローブが縄で捕縛されて魔法陣の中に座っていることだろう。
魔法陣を取り囲む人数配分はこうだ。
黒いローブ三名が二組みとなり、角形の形になるように魔法陣の外に立っている。
白いローブは五名二組となり、魔法陣の中央に五芒星のような形で座っている。
二人の黒いローブが警戒するように二つの魔法陣を行ったり来たりしていた。
今まさに儀式をしていると、説明されなくても理解できる光景であった。
『私』はドアに耳を当ててみる。窓やドアは薄いにも関わらず外の音や声は聞こえなかった。
「何も聞こえない……」
再び小窓へ移動する。数秒目を離したうちに景色に変化が現れている。目を見開いた。
「わあ~。あれは何だろう? 異界の人かなぁ? 大きいね」
手前の魔法陣に半透明な『人の足』が浮いている。
足の大きさは約三メートルほどで、巨人が立っていると推測できた。だが窓では全身をみることができない。辛うじて交叉した骨を刺繍したスカートが見えた。
スカートを履いているということは、女性の可能性が高そうだ。
(これは神召喚ってとこかな。この場合は邪神かもだけど)
生贄を求めるのは邪神だという偏見である。
儀式の様子を窺っていると、黒いフードローブを着た人が二人、空から伸びている透明な蛇に杖で指示を出し、白いローブを着た人に絡ませた。
白いローブを着た人はそれから逃げ出そうと必死にもがくが、すぐに体が動かなくなり床に倒れ込んだ。その様子を見て、他の白いローブの人たちは恐れるように身を縮ませる。
さらに二人が透明な蛇に絡めとられていく。声は聞こえないが、悲鳴が多く上がっていることだろう。
(きっと、津賀留が座っているのは奥側だね)
小窓をじっくり覗いていると、祠堂が小さく「どけ」と言って肩を押した。場所を譲ると彼も小窓から外の様子を確認して、呆れた様にため息を吐く。
「辜忌の仕業か。これだけ大規模だったとは予想してなかったぞ」
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