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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第三章 アンデッド霊園屯あふれそう
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第78話 10日間を振り返ろう

三章に入ります!

 その日の早朝は雨が降ったため少し肌寒かったが、出勤時に降っていた雨はすでに上がり、陽の光が柔らかく地面を照らして濡れている建物やアスファルトを輝かせた。


 息吹戸いぶきどは室内の窓からキラキラ光っている町を眺めて、良い天気になったなーと思いながら自分の席へ戻る。

 

 本日は玉谷たまやを含め社員5人が待機し、各々事務作業をしていた。

 残りの社員は、墓場……もとい、霊園に出没するゾンビの対応で外回りだ。

 バディを組み、連絡のあった箇所を巡りながら討伐している。数が多いので手分けして回っているから、夕方まで戻ってこないだろう。


 連日、この霊園に発生するゾンビの対応に追われている。

 討伐しても半日ほどでまた発生している。倒しても倒してもキリがない。と誰かがぼやいていた。


 最初は二課の新人が対応していたが、『きな臭い』と上層部が判断したため、一課総出で捜査するようにとお達しを受けた。

 他にも二課の捜査班と開発部の捜査班も加わっているが、未だ有力な情報はない。発生原因は不明のままである。


 調査して分かった事といえば。

 出現したアンデッドはグールとゾンビ中心のようだ。腐った肉体に悪霊が宿ったモノらしい。

 従僕じゅうぼくであれ、呪術の副作用であれ、よく発生する一般的な害獣だ。

 平たく言えば、新人社会人が最初に倒す任務というくらい、討伐難易度は低いものである。


 しかし軽視することなかれ、その処理は慎重すぎる方が良い。

 アンデッド系の真骨頂は『汚染』。

 『動く増殖する汚染物質』だ。


 肉体が有るものは、雑菌や細菌をばら撒き健康な体に巣を作って繁殖し、当たり構わず同族を作り出そうと襲いかかり。

 精神体ならば、健全な魂に寄生若しくは悪影響与えて発狂させ、己のコピーを作りだし芋づる式に増えていく。


 襲われて普通に死ぬのは幸運なほう。

 死して尚、肉体や魂を使われ二次被害を引き起こす。

 それがアンデッド系の怖さである。


(そういえば、この世界でのゾンビ化は『異界の力が体に合わなくて拒絶反応を起こした結果、死んでしまった人』も示すっけ)

 

 息吹戸いぶきどは報告書の書き方指南のページをパラっとめくる。


(適合者は異界の住人の姿と化すから従僕じゅうぼくするのであって、それはゾンビではない。ゾンビの姿に似た別の生き物だ。元来のゾンビがいる場合は、その近くで禍神まがかみの召喚が試されたことを示唆する指標になる。……と本に書いてあったなぁ)


 召喚を行うと空間が繋がる為、異界の空気が混ざる事が多い。

 抵抗力や耐久力の弱い人間がそれにやられてゾンビ化することがある。ということだ。


(だとすると、異界はアネクネーメなんだね)


 アネクメーネは人が住めない地域を示す。北極南極、砂漠、標高の高すぎる高山の頂上などだ。しかし二つの世界が混じったとはいえ、空気だけで転化することが起こり得るのだろうか。と疑問も浮かぶ。


(それとも毒素……高濃度の塩素とか、二酸化硫黄とか。……いや。それだと単純に死んじゃうか)

 

 どっちにしろ答えは出ない。そう結論付けて考えるのをやめた。

 楽しい思索であるが、今は溜まっている業務を片づけなければならない。

 はぁとため息をつく。

 

(私も行きたかったなー。ゾンビぃ……)

 

 息吹戸いぶきどはちらりと津賀留つがる東護とうごのデスクに目を向ける。二人は現場に出て留守だ。


(ううう。何が悪かったのかなー) 


 隠すこともないが、クリーチャーも好きな『私』はゾンビも大好きだ。間近でみて殴りたいと思っているし、噛まれてゾンビになったら、沢山ゾンビを増やしてやろうと意気込む危険思想の持ち主だ。


 そんな彼女がゾンビ事件と聞いて、おとなしいリアクションが出来るわけがない。



 あれは三日前、事件が一課の担当になったと知った瞬間、目を輝かせながら討伐行きたいと挙手したことで、玉谷たまやから思いっきり不信感を持たれた。

 元の息吹戸いぶきどであれば拒否する案件なこともあり、これは野放しに出来ないと直感が働いた玉谷たまやは、彼女に待機するように指示する。

 報告書作成が溜まっているので、そちらをやるように。と言われ、大人しくデスク作業をしている。


 業務内容を覚えていないので寝耳に水だったが、事件に対して報告書ぐらい書くよね、とすぐに納得して頷いた。仕事はあまり溜めないほうがいいだろう。


「あ。でも部長。ちょっと問題があるんですけど」


「なんだ?」


「私、ここより前が覚えていないので書けないので、ここからでもいいですか?」


 玉谷たまやはなんともいえない表情を浮かべたが、「そこからでいい」と頷いた。彼の動揺が手に取るように感じるがそこには一切触れず、わかりました。と返事をした。


 ……とはいえ、息吹戸いぶきどになってから10日間くらいの記憶しかない。


 通常なら一件か二軒くらいの報告書でも多いと思うのだが……。

 息吹戸いぶきどの目の前に7件の解決済み資料が並べられている。


(そう、10日くらいなのに……7つぐらい事件の報告書を作らないといけないなんて。ひえーー)


 初めて来た日の事件は『ゲンムトウビル召喚事件』と言われていた。

 息吹戸いぶきどになった『私』が異世界だと気づき『ビルの中で移動中に祠堂しどうと出会い津賀留つがると小鳥を救出したこと』までを記載している。


 いつ、どうやって中に入ったのか。

 どのように調べたらあの場所が召喚儀式だと分かったのか。

 その裏うちはなんなのか。

 一番重要だと思える部分は謎のままだ。

 なので、覚えていない項目は『謎』と書いて終わる。


 現在はヒュドラの報告書を作成中だ。

 息吹戸いぶきどは気づかなかったが、東護とうご津賀留つがるもすで作成して提出している。

 代表者一人が出せばいいような気もするが、視点の違いも必要だということで、関係者全員作成が義務付けられていた。


 今まで知らなかったのは、業務内容の基本中の基本中だったことと、息吹戸いぶきどが報告書作成を嫌がる傾向だったため、誰からも指摘されず、また、咎められなかったようである。


「よし。いいかな」


 ヒュドラの報告書が出来がったので、椅子の背もたれに寄りかかると大きく背伸びをした。一時間も集中すればなんとかなるものだ。


(うーーん。休む間もなく仕事がくる。ほんと家に帰るのは寝るだけだなんて。ブラック職場だ)


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