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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第二章三句 エピローグ
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第71話 考察と妄想の狭間

「明日退院できる……?」


 息吹戸(いぶきど)は医者からの言葉に度肝を抜かれた。

 強風に飛ばされて背中を打ち、術の反動から吐血するほど内臓が損傷したというのに、大きな怪我はないという結果。信じられなくて質問することすら忘れてしまっていた。 


(まじか。なんたる丈夫な体と回復力。パネェ)


 そう思いかけたが、いや違う、と即座に否定した。

 頭の中で菩総日神(ぼそうにちしん)と会話中に痛みが消えたことを思い出す。あの感覚こそが身体が回復した証ではないかと。


(神様が肉体ダメージを消してくれた。……マジか。現実に奇跡を起こせるなんて嘘だろ……しかも、呼びかけたら応えて力を貸してくれて、ついでに体も治してくれたなんて。素晴らしくサービスのいい神様だ!)


 実際に奇跡を体験した息吹戸(いぶいど)は、心の中で両手を合わせて感謝の念を込めた。


(ありがとうございます。今後は菩総日神(ぼそうにちしん)さまを全力で推します!)


 祈りとは推すことでもある。今後は毎日、菩総日神(ぼそうにちしん)に祈ろうと決めた。


「あ。そういえばあの後どうなった?」


 今更ながら思い出したように尋ねると、津賀留(つがる)は目を見開いて驚いた後、すぐに笑顔になった。


「はい! 東護(とうご)さんは無事です。部長に報告するため先に戻りました。アメミットから数名の死傷者は出ましたが、祠堂(しどう)さんと雨下野(うかの)さんはお元気です!」


 息吹戸(いぶきど)は「それは良かった」と淡々と応じた。死傷者が出たところで特別な感情を抱くことはない。


 返事を聞いた津賀留(つがる)は更に嬉しそうに口角を上げた。その笑みに意味を感じた息吹戸(いぶきど)は不思議そうに首を捻る。


「やけに嬉しそうね?」


「はい! 息吹戸(いぶきど)さんが他人の安否を気にされたのは初めてなので、嬉しくなっちゃいました!」


 息吹戸(いぶきど)は顔をひきつらせながら「そう」と小さい声を出した。


息吹戸(いぶきど)……一体どんな人生送ればこんな性格になるのやら。最初に記憶喪失を隠さなくて良かった。これ私じゃ演技絶対出来ない。演技してたら発狂してたかも)


 妙な頭痛を感じたところで、言っても仕方ないことだと諦め、思考が退院後について傾く。

 もしかしたら明日も即仕事が入るかもしれないが、ゆっくりできる時間もあるだろうと予想する。


「そうだ。次に半日出勤とか休暇もらえたら銭湯行こうよ」


 津賀留(つがる)が色めき立って腰を浮かした。


「え! 一緒に行ってくれるんですか!?」


「言い出しっぺ私だし、舟不町(ふなふちょう)は無理でもこの近くにも良い銭湯あるでしょ?」


「ぜひぜひ!」


 津賀留(つがる)の目がキラキラと輝いて胸の前で両手を重ねると、息吹戸(いぶきど)は眩しそうに目を細めた。


「私、部長にお休みの日程確認してきま……あ! 目が覚めた事を伝えなきゃ!」


 椅子から素早く立ち上がると、津賀留(つがる)はぺこりと会釈をした。


「少々席を外します。部長と雨下野(うかの)さんに連絡したらまた戻ってきます。何かご入り用なものがありましたら買ってきますよ」


 息吹戸(いぶきど)が「ん?」と呟いて眉間にしわを寄せた。


雨下野(うかの)ちゃんにも知らせるの?」


「はい。目が覚めたら教えてほしいと聞きましたので。では行ってきます」


「いってらっしゃい」


 息吹戸(いぶきど)津賀留(つがる)は病室から出て行くのを見送った。

 彼女がいなくなるとゆっくりとベッドに寝ころびつつ、ヒュドラ戦を思い返した。


(ヒュドラやっぱ大変だったな。あれ怪獣退治だ。あんな命がけの戦闘を何回もするんでしょ? 防衛は大変なんだなぁ)


 息吹戸(いぶきど)が「それはさておき」と呟くと、口元を妖しく歪ませた。祠堂(しどう)東護(とうご)の戦闘中のやり取りが鮮明に思い出される。


 あの二人は仲が悪い。しかし緊急時になると即座にタッグを組んで共闘していた。

 その様子はまさに持ちつ持たれつつである。

 息ピッタリとまではいかないが、互いの足を引っ張らないよう注意しつつ、アイコンタクトを行い技を繰り出す。

 時折、和魂(にぎみたま)の息の合ったコンボが決まると、二人ともが不敵に笑って視線を合わせる。

 どちらかが攻撃を受ける際に最小限になるようカバーするなど、相思相愛としか思えない動きであった。


(互いをカバーして敵を穿つ。あんな良い絵が拝めるとは思ってもみなかった……っ)

 

 息吹戸(いぶきど)は鏡を操作して召喚魔法陣に練り上げつつも、祠堂(しどう)東護(とうご)の動きを視界の端に捕えて眺めていた。

 命を賭して必死で操作していても目が離せない。

 唯一目を話したのは激痛時である。それまでは網膜に焼き付けるつもりで集中して見ていた。


(ガスガス削れていく神通力が、萌えと尊さで回復していた気がする。そう思うほどアレは良かった)


 こうやって物思いにふけるだけでも、心が自動回復しているようだ。


(興奮する! この世界に同人誌はあるの? あるか探さないと!)

 

 現実とは異なる展開という薔薇が大量に描かれ、数パターンの薄い本の原型が浮かび上がっては消える。

 まるで知恵の泉だと妄想してにやにやしながら悶えていた。


 有意義な時間を過ごしていた息吹戸(いぶきど)だが、コンコン、とドアがノックされたので正気に戻る。

 即座に妄想をシャットアウトして、スンとした表情に戻り「どうぞ」と相手を招き入れた。


「ただいま戻りました! 雨下野(うかの)さんが直接お話があるそうです」


 津賀留(つがる)がドアを開けて病室に入ると、それに続いて雨下野(うかの)が入って来た。


「失礼します。ご気分は如何でしょうか」


 雨下野(うかの)は目立ったけがはないが顔色が青く、貧血のような雰囲気であった。彼女も神通力が枯渇寸前だったため倦怠感が強く出ている。


 二人の可愛い女性を見た息吹戸(いぶきど)はテンションが上がった。とはいえその表情はスンとして大変不機嫌そうである。


「おかえり津賀留(つがる)ちゃん。いらっしゃい雨下野(うかの)ちゃん」


「長居はしませんのでご安心ください」


 そう前置きをした雨下野(うかの)が、突然後ろを振り返って開けっ放しのドアを見据える。入ってこない人物に呆れながら「少々お待ちください」と断りをいれて、出ていった。


 不思議に思う息吹戸(いぶきど)の耳に廊下から男性の声が聞こえた。


「嫌だ」


「しかし礼を述べるのも責任者の義務かと」


「嫌だ。雨下野(うかの)がやってくれ」


 あれは祠堂(しどう)の声である。病室内に入るのを嫌がっているようだ。

 諦めた雨下野(うかの)がドアを開けて中に入る時に、

 

「勝負は次回に持ち越しだ! 覚悟しろ!」


 と叫んで、祠堂(しどう)が走り去った。

 これは間違いなく宣戦布告である。


 なにか悔しいことがあったんだろうなと、息吹戸(いぶきど)は苦笑した。


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