第60話 誘導役になりました
「祠堂。召喚術に長けている者を何人用意している?」
東護がそう呼びかけると、先ほどの言い合いでしこりが残っている祠堂は、思わず睨み返したものの、素直に答えた。
「十人だ」
「そいつらは全員儀式にまわせ。誘導役は俺と息吹戸が行う」
息吹戸が「リョ」と了承する声と、
祠堂の「ちょっと待て」と止める言葉が重なる。
「どっちか一人は儀式に回ってくれ。俺と雨下野も儀式をするが。この規模を考えると、用意した人材全員でもギリギリな予感がする」
東護の顔に苛立ちが募り、眉間のしわが寄る。
「その程度しか用意できないのか?」
「無理言うな。現場はここだけじゃねぇんだ。一つの案件で俺が動かせる人数は百ほど。その中から召喚術に長けているものは四十人いるが、今回の送還術は構成が複雑で扱える奴が少ない。だから十人しか確保できない」
祠堂は威圧するように鋭い視線を向けた。現場責任者としての判断に従えと態度が示している。
東護もアメミット隊員の人数から選出数は妥当と思っている。しかしヒュドラ相手では少なすぎると感じており、計画の破綻が色濃かった。そのためしっかり非難を加える。
「人材不足とは嘆かわしいな。日頃の指導や訓練を怠っていたのか?」
「今は辜忌が活発に動いていて人員が他に引っ張っていかれる。どこも余裕がない」
東護がふっと鼻で笑った。
「余裕か。余裕がないときほど教育を叩きこむ必要があるが?」
祠堂の頭がカッとなって、拳が強く握りしめられる。
「育てても他の部署にとられるんだよ!」
「そもそも送還術を熟知していないとは話にならない。アミメットの教育水準はそれほど落ちているのか?」
「そんなわけあるか!」
大声で否定してから、祠堂は落ち着くために大きく息を吐く。
「人手不足っていっただろ。育ちきる前に任務が入って中途半端な奴が多いんだ。今回の規模と魔法陣が複雑だから出来る奴が少ない」
「はぁ。無能が揃っているのか。目の前にいるお前のように」
東護が冷たい視線を祠堂に突き差すと、我慢の限界に近づいたか、祠堂の眉間に血管が浮かぶ。
「遠回しに俺が無能だと言いたいのか?」
「思い当たる節があるようだな」
「なんだと?」
挑発を受けて祠堂が殺気立った。
隊員達と津賀留はみるみる顔を青くしてオロオロとし始め、雨下野は機材を守るため護符を取り出す。
「はは。同レベルの言い合いウケる。大きな幼児だね」
乾いたら笑いを漏らしながら、息吹戸が会話に割り込むと、
「誰が幼児だ!」
「同レベルとはどういう意味だ」
祠堂が吠えて、東護が静かに苛立った。
声を揃えて反論されたので、息吹戸は笑いそうになり口元に手を添える。
「ふふふ。私が誘導役で東護さんが術式。これでいいでしょ?」
儀式のやり方が分からないため息吹戸の選択肢は一つしかなく、悪意しかない東護と組むくらいなら隊員の方が遥かに気が楽であった。
東護はため息を吐く。
「ならばそうしよう。津賀留は術式の補助だ。俺の近くにいろ」
「分かりました」
津賀留は緊張した面持ちで頷いた。
今度は配属についての会議が始まる。
誰がどこを担当するのか聞いていると、息吹戸は再び蚊帳の外となった。退屈を感じてテントの隅っこに移動すると、腕を組んで目を瞑って作戦を反芻する。
メインは送還術。誘導はサブな立ち位置である。
倒す必要がないため術式の方に戦力がまわされたはずだ。
(さて。どうやってヒュドラを翻弄しようかな。素手は難しいから武器が欲しい。この場合は鈍器か刃物か。そもそも一人で惹きつけるのかな?)
知らない人と組むのは苦手だが、一人でやれと言われるとちょっと困る。
(巨大なモンスターから逃げる夢を参考にすると作戦は色々あるけど……でも夢は夢だから、現実とはちがうだろうなぁ)
いまのところ、息吹戸が使える技は肉弾戦である。
(ヒュドラの注意を惹く、誘導する、攪乱するには道具が必要。私が使えるのは鏡。鏡は意味ないから、攻撃によって相手の注意を引くしかない。でもやだなぁ。潰されたり噛まれれば一巻の終わりだしー)
大きな怪物を相手に正面からの接近戦は避けたいところである。
(遠距離攻撃……爆弾みたいなやつがほしい。でも皮膚が分厚そうだから、中から爆破がいいんだけど。うーん。どうしよう)
脳内で何度かイメージするも、自分一人では翻弄できないと感じて悩んだ。
すると、雨下野が歩み寄ってくる。
「何をお考えですか?」
息吹戸はパッと目を開けて、唇を歪ませる。
「一人じゃ翻弄すら出来ないなと思って」
雨下野は小さく息を飲み、口元をわずかにあけた。そして静かに首を左右に振る。
「いくら貴女が強くても一人では無理です。囮は貴方を含め六名で構成します」
「どんな人達?」
「和魂使いが三人。式神使いが二人です」
「和魂使いと式神使い。和魂は遠距離できるよね。式神使いはどんな式神を使えるの?」
「形代を使うタイプの式神です」
(ああ。形代ということは疑似式神だ)
疑似式神は紙人形、もしくは葉っぱや藁に陰陽師が霊力を込めた式神を示す。
意識を持たせれば上位、持たせなければ下位と呼ばれている。
「こちらが指定する形の下位式神は作れる?」
雨下野が「はい」と返事をすると、息吹戸はピンと閃いた。
「燃やすとか爆発とかの小細工できる?」
「ええ。可能です」
「やった! それなら首落とすのもイケるかも」
息吹戸の目が輝いたので、雨下野は不思議そうに首を捻った。
「落とす……? 一体なにを考えているのでしょう?」
「囮に使いたい小道具」
「小道具?」
「ヒュドラの注意を惹きつけていても、魔法陣に異変があったら見に行くかもしれない。万が一のために、できるだけ戦力削ぎたいなって。下位式神なら爆死しても良心も痛まない。なので、下位式神の形や能力を指定したいんだけど、やってくれる?」
「何に使うのか、教えて頂いて宜しいでしょうか?」
息吹戸が計画を話すと、雨下野は妖艶に微笑んだ。
「いい案です。用意しましょう」
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