第58話 もしや妄想同士?
テントの端にいる東護からヒヤリとした空気を感じて、祠堂は地図を見るのをやめた。腕を組み、わざとらしく大きなため息を吐く。
「相変わらず仲悪いな。喧嘩すんのやめろよ。他でやれ他で」
すぐに東護が振り返り、鋭い視線を向けた。
「貴様にだけは言われたくない台詞だ」
「なんだと!?」
祠堂が牙を向けながら怒鳴るが、東護は涼しい顔をして黙殺する。
「ほらすぐそれだ! 俺を無視すんじゃねーよ!」
相手にされてないと分かると余計に怒りが増すもので、祠堂は奥歯をギリギリと噛みしめながら拳に力を入れる。
東護は彼を視野に入れる事なくツーンとすました表情をしていた。
(ふーむ。これは…………この関係性は美味しい)
対照的な二人の姿をみた息吹戸は右手でにやりと歪む口元を隠した。
唐突に脳内でカップリングの芽が伸びあがってくる。腐女子の称号を得るまでのめり込んではいないものの、同性愛は嗜んでいる。
普段は二次元限定だが、目の保養になるレベルのイケメンならば美味しく頂ける。
(ふふふふ。今のシチュエーションだったら、会議の後に密会して互いにけん制しながら、最後はいちゃらぶ……ぐふふふ)
含み笑いを出さないように必死に耐えていると、バチッと雨下野と目が合った。
雨下野は口を真一文字にきつく閉じていたが、瞼をぐっとあげて目を見開き、瞳が爛々に輝いていた。好みのシチュエーションをみて歓喜極まっていると、息吹戸は一目で理解する。
(あ。この人同類だ)
息吹戸がなんとも言えない表情を浮かべると、雨下野も同じような表情になった。
(……確かめてみよう)
意を決して雨下野の隣に移動する。彼女から緊張した空気が漂ってきたが、逃げることはなかった。
息吹戸が小さく「いいねこれ」と呟くと、雨下野は吃驚したように瞬きをするも、すぐに正面をむいて「です」と小さく頷いた。
確定である。
同志を発見した瞬間であった。
話しかけたい気持ちを必死で堪えながら息吹戸は周囲を見渡す。
(こんなに近くに居るとは思わなかった。津賀留ちゃんはどうかな?)
津賀留は強張ったような笑顔を浮かべて、祠堂と東護を眺めていた。単にハラハラしているだけで同志ではないと判断する。
「ったく! これだからスカしたヤツは嫌いなんだ」
祠堂は響かない東護に諦めて、荒々しく毒づいた。
(このセリフ最高! ここから二人のラブストーリーが始まる展開だ。この後の任務で絆が深まる。ピンチに陥る相手に手を貸す。借りが増えたとかそんなセリフも生で聞けたらいいなぁ!)
息吹戸は無表情を保ちつつ、友情の垣根を越えて熱き想いを積み重ねる二人を勝手に創りあげ、妄想に狂乱する。
雨下野は息吹戸の口の端が少し緩みがかっていることに気づいて動悸が激しくなった。
同じ事を考えていると第六感が告げるが、まさかの人物に罠ではと疑う気持ちが強い。
この場で色々問い詰めたいが、今はそれどころではない。
雨下野は気持ちをぐっと押さえつけて仕事モードに頭を切り替えると、淡々とした口調で祠堂に呼びかけた。
「終わりましたか?」
「ああ。こいつに割く時間が勿体ない。作戦の最終確認をする」
祠堂は東護を睨みつつ、場を仕切り直した。
ブクマと評価、有難う御座いました!!
大変励みになります!
読んで頂き有難うございました。
更新は日曜日と水曜日の週二回です。
面白かったらまた読みに来てください。
物語が好みでしたら、何か反応して頂けると励みになります。