第48話 足手まといに降格
任せるというのは好きにしていいという意味である。
津賀留はホッとして椅子に座り直して、 東護を気にしつつ提案する。
「では今回は公共交通機関を使いましょう。時間内に間に合えばいいのですから」
何も言わなかったので了承のようである。
津賀留は肩の力を抜いて、ふぅと息を吐いた。
移動手段が決まったなら今度はルート説明である。
「船不町は、ここから電車に乗って三時間、バスに乗り換えて三時間で到着です。中央市と東市の県境の山の谷間にある辺境地の小さな町になります。交通手段がバスしかないので移動が大変ですけど、一応中央市になります」
息吹戸が眉を顰める。
「それ大丈夫? 経費がかかるんじゃ?」
「こっちのほうがいいです!」
津賀留がキッパリ言ったので、息吹戸はそれ以上反論しなかった。知らない土地に加えて不慣れな運転では、ナビがあっても到着出来るか怪しいところである。
この提案は大いに助かるものであった。
「そっか。ありがとう」
「いえいえ。とんでもありません。私がすぐに手配しますね!」
ドンと胸を叩く津賀留。
息吹戸が可愛い動作だなと微笑ましく眺めていると、
「息吹戸。部長から聞いたが、和魂が一切使えないそうだな」
今まで黙っていた東護が唐突に質問してきた。
不機嫌を前面に出して、興味ないが仕方なく尋ねている、という雰囲気を醸し出している。
「そうですよ」
さも当然のように答えると、一瞬、東護が言葉を詰まらせた。
「本当に、全く使えないのか?」
不信感を顕にしながら最終確認のように聞き返すので、息吹戸は頷く。
「うん。そもそも使い方を知らない」
「……」
あっけらかんとした返事を受け、東護は言葉を失った。
攻撃が出来ないと公言しているものである。
自分の身が守れない状態で激戦地に足を踏み入れる気満々だと知って、思わず「馬鹿か」と呆れた様に呟く。
「使い方思い出せばいいんだけど全然イメージにない。っていうか、本当に和魂を扱うってこと自体、全然わかんなくって?」
(もしかしたら体内の中から発するとか、体の近くに浮遊する力なのかもしれないけど)
現時点でその感覚は掴めていない。
息吹戸が他人事のように言い始めたので、
「もう喋らないでくれないか。気分が悪くなる」
東護は首を左右に振って言葉を遮ると、席を立った。そのまま玉谷のデスクへ移動する。
息吹戸はその背中を目で追いながら、両腕を組んで困ったように呻いた。
攻撃方法がない=足手まといのレッテルを貼られたようである。
真実なので怒りはない。逆に申し訳ないくらいだと苦笑いを浮かべた。
「足手まといに降格かな」
「なんとも言えません」
津賀留はフォローできない。
東護は常日頃から「攻撃が出来ない者は役に立たない」と豪語している人物だ。
息吹戸とは火と水のような関係で、常に険悪なムードが漂い喧嘩も絶えない。
しかしこの度は喧嘩が勃発しなかったと、職員たちが息吹戸の変化を不気味だと囁く。
今回東護が組まされたのは彼女の不調が原因と推測できたが、無難に終わるのかどうか誰もが一抹の不安を宿す。
津賀留も同じ気持ちだった。
これ以上拗れませんようにと強く祈うしかない。
「さて。このあとはどうしたらいいかな? どんな準備が必要なんだろう」
息吹戸が首を傾げると、津賀留は「えーと」と口籠った。
いつもと立場が逆転しているため困惑する。
「出張になりましたから、一度帰宅して、泊まり支度をします」
「泊まり支度!」
息吹戸は即座に反応した。
旅も趣味の一つなので、泊まり支度と聞いただけでウキウキしたようである。
「移動距離考えたら二泊ぐらいはしそう。用意する荷物は財布と着替えでいいかな?」
「三日分用意すれば十分ですよ。確か宿も取れているみたいなので、あとは。必要な物はデスクの中にあるので。これとこれと」
津賀留は引き出しから、職員身分証明書と三種類の書類を取りだした。
「あとはリアンウォッチを忘れなければ大丈夫です。一度帰宅しましょう」
「頼りにしてるよ津賀留ちゃん!」
「任せてください!」
討伐に行くというのに、二人の気分は旅行となった。軽い足取りでオフィスから出て行く。
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