第40話 異能にまつわる談話
津賀留は不安そうに息吹戸を見つめたあと、人物像を説明するため間を開けた。
第一印象は大事だ。
しかし、良いように説明しようと考えても、悪口のような感想を抱く。
優秀なのは間違いないが性格が少々難あり。そして息吹戸と大変仲が悪かった。
とはいえ、決定したことなのでこのまま黙っているわけにもいかず、津賀留は覚悟を決める。
「東護龍弥さんです。討伐対策部の第一課のエースで……その、強い人です」
反応怖くて言葉を濁すと、息吹戸が「東護龍弥さん?」と復唱した。
誰だっけと言わんばかりに頭に疑問符を浮かべて腕を組む。それをみた津賀留は眉間に手を当てて呻いた。
「お忘れですか?」
良いような悪いような判断ができない、という気持ちが含まれているのを感じて、息吹戸は苦笑いを浮かべて頷いた。
「うん。誰?」
これはマズイと津賀留が声を大にする。
「東護さんは一課の職員でかなり目立つ方です。兎に角イケメンで顔だけはいいので女性にとても人気です。でもこう言っては身も蓋もないですが、性格がちょっと難ありでして、女性に対しては少ないんですがその、気に入らない人によく手をあげるというか。ええと」
勢いついて悪口になってしまったと気づき、津賀留は表現を変えた。
「自分にも他人にも厳しい方です。自分と同じレベルでないと許せないというか。意見の相違を認めないというか……」
「津賀留ちゃんは虐められてるの?」
「いいえ滅相もない! 寧ろ守られています。申し訳ないくらいに!」
津賀留が歯切れの悪さを前面に出したので、心配になり尋ねると、慌てて否定された。
それならいいけど、と息吹戸が呟く。
「私ではなく、息吹戸さんへの風当たりが吹雪の暴風です!? いえ、お互いが嫌い合っているのでどっもどっちで……はっ!?」
言い過ぎたと、津賀留はパッと口を手で押さえた。叩かれることを身構えたが、
「そーなの? 分かった」
息吹戸はなにもしてこない。そればかりかあっさりと頷かれてしまったので、津賀留は返答に困った。
(津賀留の様子から推測するに、いざこざや衝突する程度はありそうだな)
無視すると決めたところで、津賀留がゆっくりと手を下ろした。
他に何あるかと聞くと、
「ええと。それで……東護さんは和魂を扱います。最も得意なのは水神の力と聞いています」
和魂についての説明出てきた。
「なんと!?」
息吹戸はヲタ心をくすぐられ気持ち前のめりになる。
津賀留は吃驚して背中をそらせた。
一般的に備わっている話にこれほどまで興味を向けられるとは予想外であった。
「水神ってことは、神霊を扱える人ってことか! 凄いねこの世界! 能力も神聖な感じがする!」
神の子孫なので『神の御魂・神の能力』を使えるとのだと瞬時に理解する。
「なら、荒魂を扱える人もいるってことだね」
「あ、はい。玉谷部長が荒魂と和魂の両方と神獣を扱える方です」
「わぁ。魔術系召喚士みたい。部長かっこいいね!」
若い頃はさぞかし活躍したんだろうなぁと想像して頬を染めると、津賀留は「?」と首を傾げた。
「ええと。そう、ですね。荒魂と和魂は両方使える方もいれば、どっちかに特出してたりと様々ですが。カミナシ所属の方、八割強は備わっている一般的な能力です」
「式神とかも使える人いる?」
「呪具を専門に扱う方ですね。勿論いらっしゃいますよ」
「そっかー。式神は呪具扱いになるんだ」
「式神は創られた生命体です。それを何代も使役されていたり、その都度作りだしたりと様々です。神獣を模して式神にしている方もいるそうですよ」
「神獣ってどんな生き物?」
「菩総日神様から承った神聖な獣です。私はそのあたりは詳しくありませんので、オフィスに置かれている本を読むことをお勧めします。お時間があるときに目を通してみて下さい」
「うん、わかった」
息吹戸はお茶を飲み、はぁっとため息を吐く。端的に聞いてみても覚える事は沢山在りそうだ。
(でもまぁ、ヲタ心刺さりまくって凄く楽しい)
津賀留はお弁当を食べ終え、お茶をゆっくり飲みはじめた。
息吹戸が「片づけていい?」と空の弁当箱を示す。津賀留は頷きながら、一緒の袋に入れて口を縛った。
「あ。そうだ。私はどんな能力使ってたの?」
「息吹戸さんは、主に和魂でしょうか。別属性を同時に何体も出現させていました」
「よくある使い方なの?」
津賀留は慌てたように首を左右に振る。
「とんでもない!? 同時に出現させるなんてよほどのキャパシティと精神力がなければ扱えません! そして無理をする分、寿命も縮みます」
「寿命ねぇ。そんなことよりも任務達成を選ぶタイプなんだ」
「そんなことって!? あ。いえ。その通りだと思います。無計画で動くことありませんが、いざ行動を起こすと敵を倒すことを第一に考えていたようですから」
(なんか。そこら辺のこだわりちょっとだけ似てる。私もミッション成功させるためなら無茶しちゃうし)
初めて親近感が湧いた瞬間だった。
「ありがと。じゃぁ最後に。津賀留ちゃんはどんな力があるの?」
津賀留は「ええと、私は……」と少し言い淀んでから、首を左右に振った。
「私は、戦闘に不向きな力です。能力は『底力』です」
聞き慣れない言葉に息吹戸が首を傾げると、津賀留は少し恥ずかしそうに視線をそらした。
「平たくいえば、仲間の身体的能力及び潜在能力を、二倍から三倍に飛躍させる力です」
津賀留は仲間と認識している者たちの潜在能力を、ノーリスクで大幅に上昇することが出来る。彼女が意識している間は効力が続き、更に、疲労蓄積も少ないという。
「え! すごいじゃん! 傍に居るだけでパワーアップするってことだよね!」
目を輝かせて褒める息吹戸に、津賀留は何とも言えない表情を浮かべた。
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