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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第六章一句 マレビト秘密裏の来訪・出張組帰還
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第345話 勝手に拝借

 大広間に置くとまずスチール棚を組み立て設置する。

 土壁にくっつけないよう注意しながら壁際におくと、箱を開けて装置を取り出し設置して、ポータブル電源に差し込む。


 このポータブル電源は開発課が考案したもので、霊獣麒麟(きりん)の紋章が描かれている特別製であった。


 回路に組み込まれた麒麟きりんの小さな爪が電気を放出。度々充電する必要がないうえ、電力が落ちてくれば爪の交換で済むお手軽なものである。

 しかし麒麟きりんの爪が入手困難であるため、一般には出回っていなかった。


 スイッチをいれると装置が起動した。チェックして不具合がないと分かると電源を落とす。


 明日から三日間、平家・畑・水質・森林の異界汚染数値調査を三人で分担して行うことになる。

機材の準備、安全の確保をしていたら、あっという間に日が暮れた。


 陽が見えなくなるとすぐに暗くなったため、作業をやめて、食事や寝る準備に取り掛かる。


 部屋数は多かったので男性二人で一室、女性一室で使うことができた。

 就寝に使う部屋を決めて中に入ると、裸豆電球を灯して明かりをつける。傘があったタイプのようだが割れていた。


 夜になると一気に気温が下がったので、磐倉いわくら金合歓きんごうかんは帽子を被り厚着をして暖をとる。しかし服に覆われていない顔や指先がかじかんだ。


「めっちゃ寒い」


 寝袋を取り出しながらカチカチと歯を鳴らす金合歓きんごうかんを尻目に、磐倉いわくらは淡々と寝袋などお泊りセットを準備している。


「お前寒くないのー?」


 金合歓きんごうかんが指先に暖かい息を当てながら聞くと、


「暖房器具無いんだから寒いに決まってるだろ」


 ムッとした声で磐倉が言いかえす。


「だよなぁ。はぁ。熱い風呂に入りたい」


「諦めろ」


 淡白なツッコミをうけて、金合歓きんごうかんは大きなため息をついて立ち上がる。


「飯食って暖まるしかないか。行こうぜ」


「わかった」


 二人は囲炉裏のある和室に向かった。滞在中はそこで食事をすると指示を受けている。

 この部屋も寒いだろうなと思いながら障子を開けると、暖かい空気がふわっと流れ込んできた。二人は驚いて目を見開く。


「遅かったの」


 比良南良ひらならが囲炉裏の前にあぐらをかいて座っていた。

 二人が立ち竦んでいたので顔を上げて、怪訝そうに眉をひそめる。「もしや寒いか?」と声をかけると、二人は首を横に振った。


「いえ、暖かかったのでびっくりして……」


 と磐倉いわくらが囲炉裏の前で正座した。囲炉裏からの熱気に両手を当てる。


「これって比良南良さんがやったの?」


 金合歓きんごうかんが驚いた顔のまま囲炉裏の前で胡坐をかくと、熱気に手を当ててこする。


「そうだ。雪で夜を過ごすことなんぞよくある」


 と比良南良ひらならが頷いた。

 彼女は日が暮れる直前に薪を回収して、灰を敷き詰めた上に薪を置き、暖を取る準備をしていた。


「雪の夜で暖を取るなら炎の熱が一番だからねぇ」


 金合歓きんごうかんが「ほんとに」としみじみと頷く。固まった体がゆっくりとほぐされると、表情も緩んできた。


「わたしはここで寝ることにしたが、寒かったらお前らも寝りゃええぞ。おなごがおるからちーとばかし照れるかもしれんがなぁ。なにもしないから安心をし」


 比良南良ひらならがにやりと悪い笑顔になる。

 金合歓きんごうかん磐倉いわくらは互いに顔を見合わせてから「どこに女がいるのやら」と言って、お道化て周囲を見渡すと、比良南良ひらならが一口サイズのチョコを二人の額に思いっきり投げつけた。ゴッ、といい音がする。


「ったく。もう少し可愛げのある返し方があるだろうに。これだから恋愛音痴の若造は」


 比良南良ひらならはブツブツと文句を言いながら、湯気が出ている湯呑に手を伸ばした。


「チョコ有難うございます」


 磐倉いわくらは落ちてきたチョコをキャッチして食べる。疲れた体に甘さが染みわたった。


「ありがと先生」


 金合歓きんごうかんもすぐにチョコを口の中に入れた。「んーまい」と舌鼓を打つ。


 もごもごとチョコを口に入れた二人は、目の前で沸騰している囲炉裏鍋をじっと見つめる。

 天井からつるされた自在鉤じざいかぎに吊るされており、水が沸騰しボコボコと音を立てていた。


 鍋の置いてあった場所を思い出して磐倉いわくらが眉間にしわを寄せる。

 金合歓きんごうかんも同じことを思い当たり、鍋を指し示しながら恐る恐る比良南良ひらならに問いかけた。


「これは……台所に置かれていたやつですよね?」


 比良南良ひらならは「そうだよ」と悪びれもなく頷き、


「とりあえず湯はいるだろうと思ってな。綺麗だったから拝借した」


 畑と冷蔵庫の中身を思い出して、残念そうに鍋をみつめた。


「畑に残っていた艶々の野菜や、冷蔵庫に残っていた手作り味噌を突っ込みたかったが。あれは異界の力が入ったものだからやめたわい。そうでなかったら食べるんじゃがのぉ」

読んで頂き有難うございました。

次回は9/17更新です

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