第33話 馴染みがなさすぎて
用件を済ませて会議スペースから出ていった玉谷に手を振りながら、息吹戸は渡された本のタイトルを見た。
『こども歴史書』、『上梨卯槌の狛犬社員用説明書』、『禍神および従僕辞典』と書かれている。文字が読めるか心配したが杞憂であった。
(ともあれ、ひらがな漢字カタカナ英語。全部入り混じっている。ほんと、神の侵略や異能がなければ私が居た世界と変わらない)
まず簡単そうなこども歴史書を捲ってみた。
『この世界は菩総日神が創り、体の一部を用いて人を創る。神の子は与えられた土地を住み易い環境へ変えていき、その変化を神は見守っていた』
『菩総日神は毎日世界を眺めている。一年の内、三か月。この世界に降りてきて休憩をしたり遊んだりする。神が思う存分休める世界にするべく、人間達は頑張る』
『二千年後、神の子孫が繁栄する天路の地に異界のモノが現れる。異界のモノは他の世界の神の子孫だ。彼らはこの地を乗っ取るべく、攻撃を仕掛けてきた』
『菩総日神の力を強く得た人間たちは、それに全力で抗っている。力が弱い者は、異界のモノに飲まれないよう一致団結をして、この世界を守っている』
『神々の戯れは、今尚続いている』
ざっとそこまで流し読みして、パタンと本を閉じた。
脳内で何度か反芻してみる。
(歴史書じゃねぇよこれ……)
誰かのツッコミが欲しいと息吹戸は思った。
気を取り直して二冊目に移る。今度は禍神および従僕辞典だ。
分厚い辞書のような、図鑑のような内容をササッと目を通す。小説をよく読む上、動体視力がいいので速読はお手の物だ。
『菩総日神が想像し天路世界の周囲に四つの世界が存在する。
北の世界はツァフォン・コハブ・シャマイム(略してコハブと呼ばれることもある)。
西の世界はマラークダテ。
南の世界はアスマイド。
東の世界はシドエドと呼ばれる』
『ツァフォン・コハブ・シャマイム、マラークダテ、アスマイドは禍神が頻繁に侵略を行う傾向があり攻撃的。シドエドの侵略頻度は少なく友好的』
『禍神。四方に存在する世界からやってくる強大な力を持った者を示す侵略神の総称。
天路国の摂理を破壊・転化・創生し、故郷の世界に変化させることを目的とする。こちらに殺意を持つ者が多い。
速やかに討伐もしくは送還すること』
『従僕。その性質から仕えている神、世界が特定できる。二つの世界が混ざった従僕も存在する。
天路の人間を転化させる特性をもつ者いる。
召喚されたモノと、転化したモノの二種類存在する』
ざっくりと異世界項目があり、そこからあいうえお順に名前が並ぶ。
化け物、モンスター、死霊など、ゲームでおなじみの見慣れた敵キャラが記載されていた。
身長体重、生息しやすい場所、性質、出遭った時の対処法、戦闘時の注意点や効果的攻撃方法まで。細かく載っている。しかし名前と姿があっても攻撃方法や討伐方法が載っていない箇所もあったので、知っているモンスターは書き込みたい衝動に駆られた。
ささっと読み終わって本を閉じる。
これが生死を別けるほど重要な資料だとわかってはいるものの、息吹戸はなんともいえない表情を浮かべていた。
(有名所のRPGの攻略本かなって思っちゃった……)
やっぱり夢の中だよこれ、という気持ちがますます強くなる。
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