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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
序章:いつものホラーアクション夢
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第23話 私の態度はオカシイらしい

 用事がなくなり手持ち無沙汰となった『私』は出てきたビルを見上げた。少し古びた六階建ての四角いビルは周りと比べても低かった。

 地上数十メートルの高さにみえていたのは、空間が螺子曲げられていたためである。

 

 あの不思議な空間のそのものが『ホラー夢』だったと感想を抱きながら、外の景色をみつめる。

 大都会の中心部だ。高層ビル、行き交う車、ビルの周りに侵入規制が貼られているためか野次馬が集まっている。一つ一つがくっきりと判別できる。音や声の種類も多様だ。


(不思議だ)


 肌寒い空気に、体温を上げようと体が身震いする。

 数秒、数分待ってみても、『私』を取り巻く状況に変化はない。

 目を瞑って、開いて、瞑って、開いて、やはり何も変化はない。


(一向に夢から覚める気配は、ないな……)


 『私』は両手を組んで「うーん」と唸った。


(そろそろ起きないと仕事遅刻する気がする。起きろー私、おきろおおおお!)


 気合を入れて起きると、目を瞑って必死に念じた。

 一分ほどそうして突っ立っていると、


息吹戸いぶきど、お手柄だ! 」


 と渋い低音で呼びかけられた。

 ハッとして瞼を開け、声が聞こえた方へ視線を向ける。

 こちらに歩いてくる男性をみた『私』の胸が、トゥンクと高鳴った。


 五十代半ばの男性。前髪だけ白髪交じりの茶髪をオールバックにしている。

 百九十センチの長身、すらっとした姿はダンディかつイケメン。深い皺も味があっていい。太い眉にやや垂れた目がとても可愛く思える。富裕層の社長もしくは味のある男優のような見た目だが、彼も茜色のジャンパーを羽織っている。


(おおおうううああああ! いいいいけめんだんでぃいいいい!)


 『私』のガチ好みであった。

 思わず目をハートマークにして見惚れていると、脳裏に言葉が過る。


 ――父親のような、部長。


 津賀留つがるの時と同じく天啓のように、ドン、と振ってきて、思わず焦った。


「え! この人は父親のような部長さん!?」


 男性の目の前で声に出してしまい、『私』はきゅっと口を閉じる。男性が「はあ?」と肩透かしした声をあげたので、『私』は「なんでもない」と慌てて誤魔化した。


(思わず声が出ちゃった。そうか、この人、父親なのか。残念。でも、どんな人か分からないから喋ってもらって人物像把握しよう)


「ええと、ごめんなさい。お話をどうぞ」


 急いで『私』が取り繕うと、


「ごめんなさい? お話を、どうぞ?」


 男性は驚愕した表情になり、ゆっくりと復唱して、首を傾げた。 


(リアクションが同じいいいいいい!)


 『私』は心の中では飽き足らず、本当に頭を抱えた。

 それを見た男性は片方の眉をあげながら「ん?」と声を上げる。


「どうした息吹戸いぶきど。見た目は怪我をしていないようだが、頭でも打ったのか?」


「いいえ違います。みんなの反応がちょっと……」


「反応が?」


「腫物のような扱いが気になって……」


「腫物、まぁ、いつものことじゃないか」


 男性が不思議そうに首を傾げた。

 普通に接しているだけなのにこの対応は理解に苦しむと、『私』が苦悩のあまり眉をしかめるた。それを見て男性は安堵したように表情を明るくする。


 『私』は「おや?」と首を捻ってから、不機嫌な顔を前面に出して睨んでみた。メンチ切っても男性は特に気にした様子もない。


(もしかして、普段の息吹戸いぶきどはムムッとした表情なのかな?)


「お前の読みは大当たりだった。まさかこんな中心部で、禍神まがかみ降臨の儀が行われているなんて思いもしなかった。手が空いたものを急いで集めたが、もう解決しているとは流石だ。お前は本当に有能なカミナシだ!」


「……犠牲だしましたけど」


「それでもだ。禍神降臨を防ぐことが一番だ。経過はどうであれ結果が良ければ目を瞑る。よくやった」


 男性は饒舌になりながら笑みを零した。

 今までと違う反応に『私』はちょっと驚いて瞬きをした。


「それに、小鳥と津賀留つがるが無事なのはお前のお陰だ。礼を言う」


(イケオジは声もかっこいい……威力がすごくて心臓に悪いな)


 『私』は頬に熱を感じたため、右手で顔を触る。

 直視すると心臓が持たないと感じて、ぷいっと顔をそむけた。


「……どうも。有難うございます」


 男性の動きが止まる。

 瞬きを数回繰り返して「……ありがとう、ございます?」と訝し気に復唱した。


「やはりどこか変だ。どうした? なにかあったのか?」


(感謝の言葉に対するリアクションは同じか)


 『私』は舌打ちをして少し反論した。


「普通に対応しているんですけど変ですか? 変でしょうか?」


 男性はゆっくりと眉をひそめた。それだけで変だと言っているようなものである。


「ああもう私はどんなキャラ設定なんだよ! ストレス溜まる!」


 『私』は空に向かって絶叫した。

 男性は得体の知れない者を見る様な目つきになり、理解しがたいと言わんばかりに首を捻った。


「それは、遅れてきた儂らに文句もなく、暴れることもなく、嫌味を言うこともなく、暴れ足りないといって去ることもなく、大人しくそこに立っているだろう? 儂の覚えている限り、初めてみる態度だ」


「私は五歳児なのかやだもおおお! エンディング終わったでしょ!? 早く夢から醒めたい! 仕事に遅刻するじゃん!」


 『私』はうろうろと落ち着きなく歩き始めた。

 どうやって夢から抜け出せるのか本気で考え始める。


(もしかして生存が駄目だった? 死んでバッドエンドで目が覚めるタイプ? いや、どっちでもいいよね夢なんだから時間がくれば起きるんだけど、ほんとに今何時なの? まだ夜中とか?)


 うろうろする間に『私』が場所を移動し始めたので、男性はすぐに追いかけて『私』の肩をポンと叩いて気を引いた。


「さっきから何を言っている……。仕事は今終えただろう? 本当にどこか体がおかしいのか?」


「体じゃなくてこの状態がおか……」


 『私』の腹からぐううううと腹の虫が鳴る。


(腹が鳴った!?)


驚いてる横で、男性の表情が和らいだ。


「なんだ。腹が減って苛ついていただけか。ちょっと待ってろ」


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