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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第五章一句 授け与えるカタストロフィー・重要メッセージ
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第186話 黒いノートの記録

 息吹戸いぶきどは青いノートを閉じた。スンとした表情になりながら天井を見上げる。


(日記……といえば日記だけど、想像していたのと違った。なんだろう……このキーワードにまみれた文章。どちらかといえば日誌なんじゃないかな。ゲームだと重要情報も含まれていて、後の展開で『ああ、これを示してた』ってなるんだけどなー)


 人間関係も含まれていたが、今とそんなに大差ないのでまぁ、関係ないかと流した。


(これは……黒いノートも気合を入れて読まなければ……)


 ごくり、と生唾を飲んで、黒いノートを開いてみる。

 始まりの日付は五年前になっていた。


〇月〇日

『私の行動をみているモノがいることに最近気づいた。

今までは夢の中だったので記憶に残らなかったが、悪夢事件に対処すべく夢現術を学んでいたことで判明した。私の記憶でこの世界を見ているようだ。姿形は一定ではなく、意志の疎通ができないので詳細は不明だが。今はどうすることもできない。何かあればその時対応しよう』


●●月〇日

『夢の話になるが、それと接触していることに気づいた。老若男女どれか分からず、年齢を問わない姿なのでソレなのかよくわからないが。時々食事をしたり会話をしているその他の一人として私の近くに居ることがある。

今日は男性で堀の深く筋肉隆々だ、肉をかじっていた気がする。話しかけてみると今は兵士をやっているという。槍を扱うのを得意としていると笑った』


〇月〇日

『夢の話だ。半年ぶりな気がする。毎回違う人間だからわかりにくいが、ソレがいた。耳の尖った若い女性の姿だった。私は質問することができた。

お前は誰だと問いかけに、ここは私の夢だと言われた。夢の中でいつもあなたが出てくる。それこそすれ違ったり時には会話したり、時には戦闘する仲間だったり(ここまでしか覚えていないが長い会話をした気がする)。

だから私は、お前は私の作りだした夢の人間なのかと聞く(この時点で見た事のない人種の男性になっていた)と、ソレは私のことをキーパーソンみたいだと笑った』


●月◇日

『夢の話だ。最初は事件性がないのでこのノートを捨てようと思ったが、引き続き記録をつけることにした。バカみたいだと思うが、私はソレとの邂逅に楽しいと感じてしまった。

今回は老婆だった気がする。いつも空腹で大変だと苦笑していた。子供が三人死んでしまったとも。大きな戦争があるとか言ってたような気がする。ソレはいつも戦っている場所にいるように思えた。でも私も同じようなものだ。なにかの死体の近くにいる。死体や死骸の傍でソレと話すのだ』


●●月◇日

『しばらく見ていなかったが、今日はいた。場所は分からないが、私は死体の山に囲まれてしまっている。私が座っているとソレが隣に座った。何か話して私の手を握った。ソレの姿はぼやけていたが、多分男性だった気がする。ごつい手だと思ったからだ。というか人だが尻尾が生えていたような? まあ夢だからな。この前倒した従僕じゅうぼくのイメージが残っていたかも知れない。

ソレの名を聞いたが忘れた。色々話をしたが、覚えているのは。

ソレは経験を積むために色々な時間を渡り歩き、人生を積み上げている。

他者を助け、自らを高めるために生を得ている。

私と夢で会うときは次に移動しているからだということ。夢は様々な先と後がすべて繋がっている空間なのでたまにこの現象が起こる。

と言っていた気がする。覚書を書いてみたが、意味が解らない』


●月●◆日

『悩んでいたからそんな夢をみたのか、鶏組織の事務所に立っていた。辺り一面血まみれで死者ばかりだ。ソレが死者を見下ろしていた。今度は老婆の姿だった。

私をみて挨拶した。ソレは泣きながら笑っていた。

何故ここにと問うと、火の手から逃げてボウクウゴウに入ったらここについたと述べた。もう次の移動をしなければと寂しそうに呟いた。

あなたはと聞かれたので、私は鶏について語った。

ソレは私を抱きしめた。慰め言葉のような励ましのような言葉をもらった。

私が今、欲しくてたまらない言葉だった気がする。覚えていないのが悔やまれる。

こうして目覚めても、私は未だ嬉しくて泣き続けているというのに』



◇月●日

『ソレが夢に出なくなったと思った一年半後、今日は久しく逢った。女性の姿だ。私と歳が近い気がする。

楽しい話をしたと思う。私は何でも話した気がする。いろいろ口を滑らせた気がする。誰にも話せなかった言葉を言ったと思う。ソレは受け止めてくれた。慰めてくれた気がする。

だからか今朝はすっきりしている。これは私の願望なのだろうか。それにしては温もりがある。もしかしてこの世界に存在しているのだろうか。探してみようか。

いや、やめておこう。ソレが現実に生きている人間でも関わることはしないほうがいい。その方が互いに良いはずだ。

次はいつ夢をみるのだろうか』


 ここで記録は終わっている。


 息吹戸いぶきどは「わぁ」と声を出す。


 これは夢日記だ。瑠璃も夢日記をつけているとは驚きだが、共感できる部分もある。夢はいろいろな場面が出てくる。知っている土地、知らない土地、ファンタジーや近未来、果ては何もない無。そこに出てくる登場人物たちも人間やら人外やら様々だ。話ができるときもあった。


 懐かしく感じて口元を綻ばせた。


「いいなー。私も夢をみたいー! ここに来てから一度も夢をみていないからつまらないんだよねー。パパぐらいでてもいいのになー」


 息吹戸いぶきどになってから一切、夢をみなくなっていた。

 ゲームのように遊べる、交流できる夢が見られることを楽しみに寝ていたというのに。

 疲労からかストレスからか分からない。でも大分生活に慣れてきたから、そろそろ夢をみるかもと期待している。

 また読もうと思いながら、黒いノートを閉じた。

読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白かったらまた読みに来てください。

物語が好みでしたら、何か反応して頂けると励みになります。

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