表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
序章:いつものホラーアクション夢
19/359

第19話 転化を解く鏡の力

「鏡よ。邪魔なモノを払って、津賀留つがるちゃんを本来の姿に戻して!」


 出るんだ! と強く念じたことが功を奏したか、『私』の声に反応するかのように青銅鏡が現れた。

 二メートルほどの大きさがあるため、津賀留つがるの全身が鏡面に写る。鏡に映る彼女は現実とは異なる姿をしていた。たくさんのフジツボが全身を覆うように引っ付いており、フジツボが人型を形成しているように見える。


(フジツボ怪人……従僕になるとこの姿になるのかな?)


 そんなことを考えていると、青銅鏡の鏡面から、カッ、と光が溢れた。津賀留つがるに引っ付いていたフジツボが砂になって落ちていき、マーブル模様がみるみる漂白されて人間の肌色に変化する。


 鏡面にうつる異物が消え去ると、現実に変化が起こった。

 津賀留つがるの体から生えていた貝がさらさらと崩れていき、肌のマーブル模様が跡形もなく消える。


「なんっ……!?」


 津賀留つがるがものの数秒で元の姿に戻ったのを見て、祠堂しどうは声を失い硬直した。


「戻ったかな? 目を開けてみてよ」


 『私』の呼びかけに反応して、津賀留つがるがおそるおそる薄眼になった。

 目の前に鏡が浮かんでいたのに驚き、正座したままぴょんと跳ねてから、映っている姿を見て「え!?」と声を上げる。


 艶々した肌に血色の良い頬とピンク色の綺麗な唇がある。

 白いローブをめくって手足を、腹部を触ってフジツボを探すが、綺麗に消え去っていた。

 津賀留つがるはおそるおそる自分の頬と額を触る。ざらりとした冷たい感触がなく、肌本来の体温と手触りがあった。


「もど、て、る……?」


 喋っても口から泡を吐くことがない。なにより、くぐもった声ではなく、透き通った柔らかい声に戻っていた。


「助かった、の……? 死ななくて、いいの……?」


 転化が解けたと理解した津賀留つがるは、全身の力が抜けて脱力すると、喜びの涙が頬を伝った。


 青銅鏡が役目を終えたと主張するように、スッと消える。

 『私』は腕を組んで「なるほど」と呟きながら口角を上げた。狙い通りの結果に大満足である。


(鏡の逸話に基づく力が私の能力みたい。それとボソウ二チ神様が力を貸してくれた可能性もある。どちらにせよ助かった。津賀留つがるちゃんは絶対に助けないといけないから、成す術もなく殺す選択になっていたらと思うとぞっとする)


 『私』は物語のエンディングに進もうとしたが、もう一人、転化を解除しなければいけない人がいることを思い出し、小鳥の前に移動して手をかざした。


津賀留つがるちゃんの知人なら助けておかないと。ヒロインを笑顔にさせることが『私』の使命だからね)


「鏡よ、邪魔なモノを払って本来の姿に戻して」


 二メートルほどの青銅鏡が出現して、鏡面に小鳥を映し出した。こちらもフジツボ怪人のような姿である。

 鏡面が、カッ、と光るとへばりついていたフジツボと肌のマーブル模様が消滅して、五十代で筋肉ムキムキのスキンヘッド男性が顔を出した。これが本来の小鳥の姿である。


 『私』は「うん? 姿が……」と訝しがる。

 小鳥を一瞥すると、うすっぺらかった白いローブが体の筋肉に添って、もこもこ、と盛り上がった。ローブの中に別の生物が潜んでいたと錯覚するような変化である。

 ちょっと不気味だったため『私』は嫌そうに目を細めた。


「ううーん……」


 微動だにしなかった小鳥が寝返りをうった。その際にフードが取れて顔がでて、小さくなったローブの端から裸足と手が覗いた。

 頭は剥げて輝いているが顔の彫が深くやや面長で、格闘技をやっているような屈強な体であった。


「小鳥さんも元に戻って……良かった!」


 津賀留つがるが安堵の息を吐きながら涙を浮かべる。


「そういえば……この人は傷を負っているんだっけ?」


 『私』は鏡の効果がどこまで有効なのか気になり、小鳥の傍にしゃがんでローブ袖を捲る。

 血で汚れて傷だらけのワイシャツを着て、ボロボロの黒いスラックスを穿いている。拷問で受けたであろう傷が体中に残っており、アキレス腱と右腕の傷からは鮮血が垂れていた。


(怪我はそのまま。肉体回復はなしで呪詛解除のみってことか)


 傷をさっと確認したところ、おそらくすぐに死にはしないだろうと判断して、『私』は立ち上がった。


読んで頂き有難うございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ