第18話 私達は神の子孫
『私』は津賀留から揺るぎない意思を感じ取った。
しかしはいそうですかと納得しない。
真のエンディングにたどり着くのも大事であるが、見捨てる選択をするわけにはいかなかった。
(情報が足りない。もっと情報がほしい)
解除についての情報が不足しているため、策が何も思い浮かばない。
(なにより、私がいるのに諦めてもらっては困る)
「津賀留ちゃん、諦めずに解除について教えて、他にも方法があるでしょう?」
「いい加減にしろ!」
静観していた祠堂が叫んだ。
「さっきから聞いていたら。お前、津賀留の覚悟を何だと思っている!」
『私』を睨みつけ、殴りかかる様な雰囲気を出す。
津賀留が吃驚した様に瞬きをしながら「祠堂さん……」と呟いた。
「禍神降臨で発生した浸食は、菩総日神様の世界、天路国を乗っ取る術だ。浸食は俺たちにも強い影響を与える」
(あっちから説明の追加きた!)
『私』は爛々と目を輝かせる。
「そして津賀留と小鳥さんはおそらく七から八割転化している。初期だったら解除道具があれば助かる可能性があった。だがここまで進行していたら道具があっても打つ手はない! そもそも、俺もお前も、解除能力がないからな! こいつを救う事ができないんだよ!」
(なるほど。元の体に戻す道具はあると。そして解除ができる特殊能力があるってことか。つまり転化は可逆性の術ってことなのね。転化解除の根源はなんだろう。相手を元に戻す……巻き戻しって考えるべきか……それとも)
「従僕に堕ちるくらいなら、殺してやるのが慈悲だろうが!」
(!?)
祠堂は拳を握りしめて感情のまま叫ぶが、『私』の目を見てすぐ口をつぐんだ。
「殺してやるのが慈悲? 慈悲だって?」
『私』はゆっくりと立ち上がって祠堂を見据える。その目に浮かぶのは激しい怒りの色であった。
「頭にくる。どうして殺すなんてそんな言葉、簡単に口に出すんだ? まずは救う方法を考えるべきだろうが!」
『私』が怒鳴ると、空気にピリッとした刺激が広がった。
津賀留はビクッと体を強張らせて沈黙する。
祠堂は一瞬怯んだものの、すぐに勢いを取り戻した。
「だ・か・ら! その方法がないんだって知っているだろうが! 俺達は神の子孫とはいえ血の濃さはバラバラで能力も違うし差も大きい! 転化解除できるのは菩総日神様の力を強く受け継いだごく僅かな一族だって、そいつら呼んでももう間に合わないって言ってんだ!」
『私』はある事に引っかかった。
「え。ちょっとまって。神の子孫? 私達は『神の子孫』って設定なの!? なにそれすっごい!」
興奮しすぎて心の声が口から洩れてしまい、
「……は?」
「……え?」
祠堂と津賀留の目が点となり、固まった。
やや間を空けてから、津賀留が口の中がパサパサにしたなったような声を出す。
「息吹戸さん、どうひたんですか? きょはなんだか、変で……は!?」
余計なことを言ってしまったと、顔を青くしながら慌てて口を押えた。
「えーと、ちょっと待って。得た情報を整理するから」
『私』は二人に背を向けてから両腕を組んだ。
(つまりここは神が実体化できる世界で、人間は神から生まれた子ということだ。だから特殊能力があって、その力で異世界から干渉してくる神や従僕と戦っている。そこまでは理解できた)
ふと、壁に空いた穴をみる。
洪水を止めたくて鏡を出したことを思い出す。
(鏡を出せた。ここにミッションクリアするためのヒントがあるはずだ)
鏡について知識を絞り出した。
(鏡は古来より神が地上にもたらした物とされている。姿を映し、光を集めることも出来る。反射することもできて。そうそう儀式に使われるね。死者への弔いに使われるし、祭祀には欠かせない。古来より鏡を通じて神の力を得る儀式にも使われていた)
ここでピンと閃く。
(もしかしたら、鏡に神様の力を集める事が出来るかも!)
おそらく、この世界は神力がある。
『私』の世界よりも遥かに強力で、実体化するほど力がある。
(転化が呪いだと仮定すれば、二人が言っていたボソウニチ神様の力を集めてぶつけて津賀留ちゃんの呪いを相殺する! 鏡は邪気を払う魔除けの術具だ。それを強くイメージすれば出来る! だって夢だから! できるって思ったことは大抵出来るもの!)
『私』は振り返って、津賀留に手を掲げた。
津賀留はハッと気づいて、「お願ひします!」と祈りのポーズをしながら目を瞑った。体がカタカタと震えている。本当は死にたくないと悲しい感情が伝わってきて、『私』の胸が痛くなった。
(絶対に津賀留を助ける。ミッションコンプリートする為にね!)
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