第176話 涙が降る
津賀留は霊園の入り口近くで、木々や茂みに隠れるように座っていた。カミナシの事後処理班達が通りかかる度に、大丈夫か、と声をかけられる。
「大丈夫です。ヘマして怒られただけですから」
簡単に理由を説明すると、ドンマイ、頑張って、と励ましの声がかけられる。彼等も津賀留の相棒が息吹戸だと知っており、彼女が叱られて泣く姿を見るのは初めてではなかった。
涙が止まったら戻るつもりだったが、何度も涙をぬぐうも、後から後から涙が溢れて止まらない。
ブルルルル……と駐車場を走り去るワゴン車がみえた。あれに息吹戸が乗っていることは知っている。
本当はついて行きたかったが、今は合わせる顔がなかった。
こっそり見送ってから津賀留は緩慢に立ち上がる。俯きながら彫石の元へ戻ろうとしたら、一台のアメミットの車が駐車場へ入ってきた。
「あれは……」
空いているスペースを探しながら、津賀留の近くのスペースに停まる。
パタンと運転席と助手席のドアが開き、アメミットのジャケットを着た男女二人組が車から降りてくる。祠堂と雨下野だ。
二人は長く組んでいる。攻撃指示主体の祠堂に、防御強化指示主体の雨下野。
阿吽の呼吸が素晴らしいとカミナシでも絶賛されていた。
あんなふうになりたい。と、二人を眩しそうに見つめる津賀留の視線に気づき、祠堂がこちらに振り向いた。「あ」と声を出し、速足で近づいてくる。
「津賀留。あれから現場はどうなった? ファウストの現身は戻ってきたか?」
ぶっきらぼうな口調から心配そうな心情が垣間見える。
その声を聞いて妙に安心してしまい、津賀留がダバーと涙を決壊させた。祠堂はギョッとして一歩あとずさる。
数秒待って「まさか」と顔色を変えた。ミイラ取りがミイラになる、最悪な展開が頭をよぎる。
津賀留はブンブンと勢いよく頭を左右に振った。
「息吹戸さん戻ってきました! 勝木さんも東護さんも一緒です! さきほど病院に行かれました」
「そ、そうか」と祠堂は強張った顔を緩ませた。
「それは感涙の涙ですよ。祠堂さん」
雨下野がゆっくりと近づいてきて、綺麗に折りたたまれたピンクのハンカチを津賀留に渡した。
「津賀留さん、これを使ってください」
「あ、ありがとうございます……」
なんだかとても気まずい。そう思いながら津賀留はハンカチで涙を拭いた。腫れぼったい目が更に腫れぼったくなる。
泣きすぎて顔全体が腫れてしまっていた。
うーん? と不思議そうに唸りながら、祠堂は津賀留の顔を覗き込む。酷い顔をマジマジと見られてしまい津賀留の乙女心が地味に傷ついた。
「感涙って、こんなに泣くようなものか?」
「……」
しょんぼりと俯くと、雨下野がチラッと一瞥して数歩踏み出す。津賀留を背中で庇い隠して、さりげなく祠堂を後ろ追いやり距離をとらせる。
「反動です。よっぽど心配なさったのでしょう。私が少し落ち着かせますから、祠堂さんは彫石さんの所へ向かってください」
「そうだな、お前に任せる。津賀留が落ち着いたら来い」
祠堂は霊園へ向かった。
雨下野が彼を見送っていると、津賀留は遠慮がちに声を出す。
「すみません。ご心配かけて。私は大丈夫なので雨下野さんも仕事に戻ってください」
雨下野は津賀留をみる。俯いて隠していたが、彼女はまだ涙が止まっていなかった。
「そうしたいのはやまやまですが」
雨下野は呆れた様な視線を向けた。
「貴女。息吹戸さんから何か言われたのですか?」
あけましておめでとうございます。
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