第17話 津賀留の覚悟
『私』はもう少し情報を得るために聞き返した。
「津賀留ちゃんが、今の姿ではなく、別の何かに変わるってことよね?」
津賀留がゆっくりと頷く。
「そうれす。菩想日神様の子孫では、なくなり、ます。ううう、わああああん。いひゃ! いひゃですうううううううう!」
「嫌だよねぇ。とりあえず落ち着こうか」
『私』が号泣する津賀留の背中をよしよしと撫でる。
津賀留は目を見開いて怯えるような目つきになった。しかし驚きにより混乱から立ち直ることができたため、パニックから脱する。
「息吹戸さん、お願いが、ありゅます」
津賀留は鼻をすすりながら『私』に懇願の眼差しを向けた。
『私』が首を傾げると、津賀留はその場で土下座をする。
「禍神の子孫にはるまへに、どうかその手で、私を殺ひてください!」
「ちょま!」
ちょっとまって! を略してしまった。
腰が抜けるほど驚いてしまった『私』に対して、津賀留は必死に訴える。
「たふけて頂い、たのに殺して、だなんひぇ、息吹戸さんの、気持ちを踏みにひっていまふゅ! ですが、貴女なら、私を救っひぇぐれると信じていまず!」
『私』は嫌そうに「ええええ」と声をあげて拒否した。何を好き好んで人を殺さないといけないのよ、と小さく毒づく。
「私はもう間に合ひません。息吹戸さんならぎっと苦じまずひ、殺してぐれまふゅ! どうかお、願いします!」
(私は息吹戸っていう名前で、遠慮なくサックリ殺れちゃうタイプの人間なのか……まじか)
今更ながら『私』が『息吹戸』というキャラクターだと分かるが、名前を知っても何の役にも立たなかった。
『私』はこの状況に困惑した。助けが欲しくて祠堂を見ると、彼は苦々しい顔つきで津賀留を見つめている。
深刻な事態と感じとってなおさら言葉をかけにくくなった。
(でもなぁ、助ける人を殺してしまえばミッション失敗だよ。うーん。ここまできて失敗だなんてありえない。他の手立てはないのか?)
『私』は胸の前で両手を組みながら悩む。
(ヒントがほしい)
『私』はその場に両膝をついて、土下座したままの津賀留を起こした。津賀留の顔は涙と鼻水でボロボロになっていたので、手の襟で拭いて少し綺麗にする。
「ほんとに死ななきゃダメ? 解除方法はないの? たとえば何かのアイテムで解除出来るとか?」
予想外の言葉を聞いた津賀留は息を飲む。
鼻水が垂れてきたのですすりながら、首を左右に振った。
「転化、かひじょできる……カミナシに、しょぞしていまずけど、ここまで浸食が、進んでしまひぇは……数時間、変貌しまひゅ。それではみなんへ迷惑がかか、ます」
「数時間以内に解除すれば津賀留ちゃんは助かるの?」
『私』の真摯な眼差しを避けるように津賀留は下を向いた。
覚悟した気持ちが揺らぎそうになり、それを振り切るために口調を強くする。
「きっ、無理です。一日でこの姿になりひた。数時間いはい、いへ、数分かほしれません。私は従僕とふぉり、菩総日神様の子孫でふぁなくなりまふぅ。きっとみなさ、んを攻撃します。そうなる前に死んで、おけば迷、惑をかけなふぃ……」
ぶわっと涙が溢れてきて、津賀留は乱暴に目元を袖で拭いた。
口から出ている泡が白ローブをどんどん濡らしていく。
(ここにきて二度目のチュートリアルとは。とっても分かりやすい説明だった)
津賀留の異常を解決すれば真のエンディングにたどり着けるのだと『私』は納得する。
「津賀留ちゃん。死ぬのはいつでもできるから、転化を防ぐ方法を考えよう。転化を解除する方法について知ってることを」
教えてと言い終わる前に、津賀留が『私』の両手を掴んだ。
「従僕ふぇ、なるくらいなら死んだ方がマシでふぅ! お願いします、私が私どぇなく、なる前に、殺ひてください!」
津賀留は眉をキッと吊り上げて、揺らがない決意をみせた。
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