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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
→→→亡者の世界も大混乱
155/365

第155話 何が正解なのか……

 龍美るみの手が小刻みに震える。それは真実を語るという強い思いと、兄に嫌われてしまうという恐怖心からである。


『私、お父さんとお母さん殺しちゃってショックで……それにお兄ちゃんに絶対に嫌われるとおもって……怖くて。自分のやったことが信じられなくて。逃げたくて……ここからいなくなりたいって思ったから衝動的に……ごめんなさい』


 苦しそうに顔をゆがめた龍美るみ

 東護とうごは添えられた両手を握り、頬から離した。


「嘘を、嘘を言うな!? ならば何故、呼び出した時にそのことを言わなかったんだ!」


 彼は磐倉いわくらに協力を求め、何度か家族の霊魂を呼び出そうとした。従僕じゅうぼくになると異界の霊魂になるため簡単に呼び出すことができない。

 呼びかけに応じてくれたのは龍美るみだけだった。

 当日のことを聞くと、悲しそうな表情をしてすぐに消えてしまい会話はできなかった。


 声を荒くして聞き返すと、龍美るみは首を左右に振った。


『本当の事を言わないように、その人に術かけられた。でもそのお陰で、私は死んでも人間としての意識を保てることが出来て……』


 東護とうごはハッとして龍美るみを見下ろす。


「まさか……従僕じゅうぼくになっても龍美るみだけが呼びだせたのは……」


『その人の術のおかげ。従僕じゅうぼくだけど人間の意識を残してもらったから』


 そんなばかな。と呟く。

 

 転化てんかの進行を防ぐため、霊魂の応急処置訓練は受けている。

 応急処置が可能なのは『肉体の従僕じゅうぼく化が五割未満の場合で、人間の意識が残っている時に限る』場合だ。

 意識固定術をかけておくと、転化てんかの進行を一時的に停止させることができる。そこから徐々に転化てんか解除を行い人間に戻していくのが一般的なやり方である。


 しかし龍美るみの体は五割以上ではなく、殆ど浸食されていた。その状態では意識すら異界に蝕まれているので、意識固定術は間に合わない。


 そこまで考えて、東護とうごの脳裏にある可能性がよぎる。


「……霊魂の保護をしていた、から。…………あれが、そんな術も、扱えたというのか……?」


 そんな状態に陥っても霊魂が確立しているのならば、残る方法は一つだけ。


 肉体から霊魂を切り離し霊魂のまま固定する術、『霊魂護持(ごじ)』だ。


 それは神の領域であるがゆえ、菩総日神ぼそうにちしんの特命を担う人間、周旋人しゅうせんにんだけが使用できる秘術であり、どのような手順を踏んで行われるのか伝承すらされていない。


 東護とうごは狼狽しながら頭を振った。


「あの女が……周旋人しゅうせんにんだと? そんなはずはない……。あんな、信仰心が薄い人間なんかが……」


 それが真実だとしても、混沌を生み出すだけでなんの慰めにもならない。


『やっと本当の事が言えた』


 龍美るみは安堵したように薄く笑顔を浮かべたまま、大粒の涙を流し始める。


『これでしっかりさよならができる』


 東護とうごは思考を止めて妹を見つめる。この時間は永遠ではない。もう残り時間がすくないと分かっている。

 最後にもう一度妹を強く抱きしめた。龍美るみも兄を強く抱きしめる。


『ごめんなさいおにいちゃん。あの人の言う通り、私だけでも生きていたら、おにいちゃんがこんなに苦しむことはなかったよね。ごめんなさい』


「もう謝るな……。謝るのはお兄ちゃんのほうだ」


『おにいちゃんありがとう。大好きだよ……』


「俺も龍美るみが大好きだ」


『さよな…………』


 嬉しそうに笑顔を浮かべた龍美るみは、ウィルオウィスプと一緒に綿毛のように風に吹かれて静かに消えてしまった。

 妹を抱きしめた姿勢のまま東護とうごはその場に崩れ落ちる。


 パリンと鏡の割れる音が聞こえて景色が一変するが、彼にはその光景が目に入らない。

 妹との再会に喜ぶと同時に、今までの認識を崩されてしまい混乱の極みであった。


 死人と同じような手をぼんやりと眺める。

 己の変化に気づくよりも、その結末を悲観するよりも、彼はずっと心に問い続ける。


 何が正解なのか。と


 どんなに考えても答えが浮かぶことはなかった。

読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白かったらまた読みに来てください。

物語が好みでしたら、何か反応して頂けると励みになります。

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