第152話 サブミッション成功!
(よし。勝木さんに全部任せよう。私は別のことやらなきゃ)
息吹戸は山伏鬼を探して歩く。一人の山伏鬼と目があうと、生き残っている三人の鬼が、照らし合わせたように集まってきた。
「ウィルオウィスプの討伐完了しました」
「助かるー」
どうやら東護で手一杯の時にウィルオウィスプを一掃していたようだ。大変有能だと、息吹戸は満足そうに見上げる。
「な、んだあれ」
「……鬼か」
勝木と東護が驚きすぐに攻撃の構えになったので、息吹戸は手で彼らを制止する。
「味方だよ。攻撃しないで」
勝木と東護は互いに視線を絡ませて
「味方だな、わかった」
勝木が返事をしたあと二人は構えを解いた。
山伏鬼は二人をチラッとみてから、次に向かう方角へ体を向ける。
「要件が済みましたなら、主殿の元へ向かいましょう」
「そーだね。おかあさまに行くって伝えてあるし」
息吹戸はくるりと体を半回転させて呼びかける。
「お二人はまだ戦えそうですか?」
「あ、ああ……」
疑念を抱きながら勝木が返事をする。東護は無言になり思いっきり視線をそらす。
息吹戸は細かいことを気にしない。
「この先に禍神が出現しているので、お二人に余力あれば手伝ってくれるとすっっっごく助かるな!」
手伝ってよと圧を加えながら低姿勢でお願いすると、勝木は一歩下がった。いつもの命令口調の方がまだ対応しやすいと困ったように眉を下げる。
東護は見たくもないものを見るように目を細めて視線をあげた。疲れた表情をしている。
「禍神がここにいるのか?」
と、勝木がきょろきょろとあたりを見回し。
「……何故貴様にそんな事が分かる」
と、東護は両腕を組み冷ややかな態度を示した。
流石、カミナシの仕事中毒者。禍神の名を出した途端、興味をもち、即座に気を引き締めてきた。
転化を解いたときに二人の体力と精神力と神通力、和魂の精神力を七割程度回復している。
ここで戦力に加わってもらえれば勝率がグンと上がる。
加勢するタイムリミットはあるものの、サブミッションよりは余裕がある。
息吹戸は簡単に説明を始めた。
「おかあさまからの協力要請です。死者の国に禍神が降臨してしまい、異界のアンデッドが地上まであふれています」
勝木が手を挙げて言葉を遮る。
「ちょっとすまない。おかあさまとは誰だ? 息吹戸の母親か?」
息吹戸は「あ」と声をあげてすぐに言い直した。
「失礼。おかあさまは愛称です。本名は岡様。死者の国担当で神の代行者です。彼女から直々に協力要請を受けました」
「神の代行者? 聞いたことない」
切り捨てるように言い放つ東護。仕事に切り替えた途端いつもの様子に戻った。
もう大丈夫だな、と息吹戸はニコリと微笑んだ。
「あまり聞かないそうですねー。というか、どこまで話せばいいのかわかりませんので端折ります」
「そこ端折っていいのか?」
と勝木が呆れたように呟いた。
一から説明する気力が沸かないので息吹戸は力強く頷く。
「要は、死者の国の偉い人に頼まれたから禍神の送還を行うってことです。私の力が必要だそうなので今から行くんですが、お二人はどうされますか? 戦えないのなら無理維持はしません。変えるのであれば山伏鬼に頼めば死者の門まで案内してくれると思いますけど……」
チラッと山伏鬼達を見ると全員が頷いた。送り届けてもらえる。
「俺は行くぞ!」
勝木が鼻息を荒くして熱い胸板をドンと拳で叩いた。一人助っ人確保である。
「はぁ。情報の出所が怪しいが、その話が本当なら手を打つ必要がある。ついていこう」
疑問の念を抱きながら、東護も同行する意思を示す。
(話が分かりすぎて助かる。さすがカミナシ。おかあさまもこんな気持ちだったに違いない)
「ではお二人とも参加ってことで」
「任せろ! 苦労をかけた分だけ力を貸すぞ!」
息吹戸はグッと親指を立てた。
それを見て勝木が力こぶを作りながらドヤっと笑う。
そんな二人を見た東護が絶対零度の視線を向けている。
三人の様子をなんとも言えない表情で見つめる山伏鬼達。
話がまとまったところで、東護は考え込むように視線を下に向けた。
彼の脳裏に龍美との再会が反芻される。
「……っ」
再度頭を振る。妹から聞いた話が信じられない。
苦々しい昔の記憶が色濃く蘇り、東護はズキズキと鈍く痛む頭を手で押さえた。
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