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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
序章:いつものホラーアクション夢
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第15話 耐えろ、能力出現

 鏡面が輝くと青銅鏡の四方から金属製の帯が伸び、ドアの周囲を隙間なく囲って半円状の壁となる。それは壁の中に鏡が一つ埋まったような光景であった。壁は薄暗い青を光らせて『私』の輪郭を浮き上がらせた。


 祠堂しどう津賀留つがるは驚いて息を飲みドアの向こう側を凝視する。彼らに鏡はみえていない。強烈な光が広がったという程度である。


「やった、できた!」

 

 輝いていた鏡面の色がなくなると向こう側の景色が映った。

 そこには水しかなかった。

 明かりを消した真っ暗な水槽、否、夜の海のようであった。


 『私』は上手くいったことに安堵して、はぁ、と息を吐くが、壁一つ越えた向こう側の闇に少しの恐れを感じてすぐに口を閉じた。


(これで防げるといいんだけど……うーん、深海のホラーパニックを思い出す。何か突撃してきそう、サメとか、サメとか……)


 ドォン、ドォン、と音を立てて鏡面が振動する。

 イシュ・チェルは屋上の空間を水で沈めた。水を操るということは重力を操ることと等しい。水中で不規則に動く流れが内部波となり、強い衝撃を青銅鏡に与えた。


 その煽りをモロに受けているのが黒いローブたちだ。すでに事切れており、激流に身をゆだねきりもみしながら流れている。

 フードが取れて顔がみえた。苦悶の表情を浮かべていたが、彼らは普通の人間であった。

 水以外に何もないとはいえ、あれだけ激しく動かされていてはそのうち、四肢がバラバラになることだろう。


 とはいえ、それは『私』には関係のないことだ。

 感想を述べたとしても、泳いでいるなぁ、といったシンプルなものである。


(このまま神様が消えるのを待つだけだ)


 と『私』は呑気に考えていたが、すぐに考えを改める。

 背中に悪寒が走って関節の節々が痛んだ。心臓が激しく脈打ち、深呼吸をしなければ肺に空気が入らないような状態となった。

 身体に負荷がかかっていると分かり、『私』は思わず鼻で笑った。


(これはよくある術の副作用ってやつかな? フィジカルストレスっぽい、うっ、これは、けっこーしんどいぞ! でも頑張らないと! 突破されたらビルが水に沈んじゃうからね! ここまで来たんだからバッドエンドは避けないと面白くない!)


 水の渦が蛇の形へと変貌して、青銅鏡の護りを破ろうと激しく追突してくる。

 ドォンドォン、と地響きのような音と振動が全身を激しく揺らすので、踏ん張らないと転びそうだった。


 何度かの突進の後、べきぃ、とガラスの割れるような音が辺りに響いた。


 辜忌つみきが作った結界がイシュ・チェルの攻撃で破損した。

 異界と繋がる道が崩れたため空間の剥離が始まる。


 黒い煉瓦の壁があちこちで発生すると、水を取り囲み青銅鏡の結界ごと一つの空間として隔離し始めた。世界の境界は屋上のドアである。急いでビルの中に入らなければあちらの世界に飛ばされてしまうだろう。


「いぶきどさん、早く、なかへ! ドアの、近く、遮断されて!」


 津賀留つがるが小鳥を抱きしめて引きずりながら奥の壁へ逃げる。


「取り残されるぞ! 早くこっちへ来い!」


 祠堂しどうがドアに身を乗り出して警告するが、『私』は青銅鏡が受けている影響のため、体が動かなかった。片足を浮かせると青銅鏡の方へ飛んでいきそうなほど、あちらの吸引力が強かったせいである。


「う、動けない……」


「それを早く言え!」


 祠堂しどうはドア枠を握り、上半身と腕を精一杯伸ばして『私』の襟首を握りしめ、素早く後ろに引き寄せた。


「わわわわ!」


 グン、と体が後ろに持っていかれて『私』はビルの中に入る。


 祠堂しどうは投げ飛ばすように手を離して、


「発動!」


 すぐに懐から護符を取り出し簡易結界を発動させると、巻き込まれないように数歩ほど離れて様子を窺った。

 

「いって!」


 『私』はバランスを崩して尻もちをついた。

 お尻を触りながら前を見ると、黒い壁が屋上のドアが跡形もなく消えて、代わりに黒い壁が浮き上がっている。

 タイミングが少しでも遅れていたら『私』は壁に埋まっていたか、あちら側に取り残されていただろう。


(なんとか助かった。この度の夢はハラハラドキドキだったなぁ)


 立ち上がって周囲を見回す。


「あれ……そういえば鏡は? 出したはずなんだけど消えたかな?」


 『私』の呼びかけに応じて、黒い壁に大きな丸い窓が出てきた。屋上の様子がみえる。

 濁った水と巨大な足の裏だ

 足の裏はイシュ・チェルのものであり、鏡を蹴って壊そうとしているようだが、次第にその形が不鮮明となっていく。


(プロジェクターで老婆の映像を投影したみたいにみえる)


 ぼんやりと眺めていたが、祠堂しどうが窓の前に立って遮られたので、『私』は無言で立ち上がった。


「分離の余波を危惧したが……これが完全に影響を遮断している。あの光はなんなんだ?」


 祠堂しどうは不思議そうな顔で壁を軽くトントンと叩いた。


「いぶきど、さん!」


 『私』が立ち上がると、津賀留つがるが涙を浮かべながら駆け寄って来た。そして胸に抱き付いてぎゅっと顔をうずめる。『私』は何気なく周囲を見た。


(救出できた。協力NPCも、私も生きてる。謎の団体の儀式も阻止できた。ってことは、ミッションクリアだね)


読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

話を気に入りましたら、いいねや評価をぽちっと押していただけると嬉しいです。

感想いつでもお待ちしております。

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