第130話 地界の役割
「地界は菩総日神の子孫が死後しばらく滞在する世界だよ。ここで生を忘れて無になり、世界にそのエネルギーを返すことになるねぇ」
なんてことなく告げるが、息吹戸は少しこんがらがる。
なので、ちょっと概念を思い出すことにした。
霊と魂は、命について使われるときにはほとんど同じ意味だ。両方とも人間の非物質的な部分を指し示す。
魂は人とこの世の関係において横の見方であり、物質的、非物質的な部分も含めてこの世を歩くためのエネルギーとされている。
霊は神との縦の関係においての見方であり、神と繋がり歩む部分とされている。
そして霊魂は、個人の肉体及び精神活動をつかさどる人格的なモノで、五感的感覚による認識を超えた永遠不滅の存在とされている。
肉体から離れたり、死後も存続することが可能とされ、それだけで一つの実体をされている。
生きている間は体内にあって生命や精神の原動になり、肉体を管理し精神を司り人格をなし、感覚による認識ができない存在だ。
人の生死を含む世界観は神話、宗教、哲学、芸術において重要であった。様々な概念があるため一概に言う事は困難だ。
天路世界に概念が当てはまるかわからないが、理解する上では必要である。
息吹戸はこう決めた。
「だからつまり、地界には霊がいるってことにしよう」
「そうか。霊ね。うん。正しい」と適当に相槌をする岡。
「そっちではどうか知らないが、天路民は神の力が受け継がれた肉体の構築が完了したあと、霊魂が創られるんだよ。生まれる二十四時間前くらいから構築されるんだ」
「なーるほど」
(つまり個人の肉体と精神活動を司る人格的な存在は、肉体から生み出されるっていう設定なんだ。肉体の強さに合わせて魂が創られて、それが成長して霊になるって考えた方がいいかも。おかあさまが言った『意識の塊』というのは『精神体』という意味だね。肉体が存在していないから魂という表記を使わないだけで、同じ意味なんだろうなぁ)
「そうなんだよねぇ。その血が濃いいほどレアな霊魂が産まれるんだよねぇ」
「……レアな霊魂? 例えば?」
「例えば、その体、『息吹戸』のようにねぇ」
「ああやっぱり。特殊ですよねこの体。納得しました。息吹戸はどのくらい特殊なんですか?」
「そうだね。SSR霊魂ってとこかな」
(いきなりソシャゲやカードゲームっぽくなった)
「例えばNは一部の一般人や多くの子供。頑張れば使えるかもしれないけど、殆ど使えないかも、そしてコントロールできないかもしれないねぇ。Rは多くの一般人や一部の子供。力が使えて強弱のコントロールが出来るってとこだねぇ。訓練次第ではSRにいけるねぇ。SRは力が強く伸びしろも大きいよ。カミナシやアメミットはこのランクじゃないと入れないねぇ。能力多彩でまさに戦うために生まれてきた魂だねぇ」
岡はピッと息吹戸を示した。
「そしてSSRは半神に近い能力と肉体を備えた者だ。例外なく、死ぬまで戦いに身を投じる運命だよ」
そして一つのランクに対しても十段階とさらに細かく設定しているがその説明は省いた。
岡はにやっと笑うと、指し示すをのやめて腕を下げた。
「そんな感じで色々な霊魂が産まれ、肉体が死んだらここに集められる」
息吹戸は通り過ぎる半透明な人間たちを遠巻きに眺める。
「この霊はどうなるんですか?」
「大部分が消えて、ほんの一握りが和魂や荒魂、神獣といった神霊の核になるんだよ。だたし核になるともう二度と人間として生まれる事はなく、エネルギーが消滅するまで戦うことになるけどねぇ」
「神霊は有限なんですね」
「蓄積されたエネルギー体だから、身を削りながら攻撃しているねぇ。でも菩総日神の力で回復出来るよ。だからこっち降りてきたときに一斉に回復させてるねぇ」
「もしかして、和魂や荒魂ってあんまり使っちゃいけない能力なんですか?」
「いやいや。どんどん使っていいよ。神霊のエネルギー量は人間より遥かに大きいから」
「それならよかった」
もし危険な能力だったら玉谷部長に進言するつもりだったが杞憂で終わった。
例え危険でも有効な攻撃方法なので、強制はせず本人の意思に任せることになりそうだが。
「まあ。回復を期待できるのは一年に一度ほど。その間に力を使いすぎて死んだり、死にかけたりする神霊も中にはいるからねぇ。一年は短いようで長いのさぁ。苦肉の策として宿主の生命エネルギーを使って生存可能だけど、ずっと奪うと宿主殺しちゃうから加減が難しいねぇ」
「宿主……寄生体みたいな話に」
「生きている霊魂と同化して待機中のエネルギーを確保しているから、ぶっちゃけ寄生しているようなもんだよね。ウィンウィンの関係だけどもねぇ」
「有難い存在なのに……そんな扱いに」
「ははは。代行者の特権ってやつさ。息吹戸はそんな事思っちゃダメだぞ。ヘイト値溜まるし、下手すりゃ攻撃されるから」
「恐ろしくて考える事すら出来ません」
息吹戸がフルフルと首を左右に振ると、岡は下から見上げて指を唇に添えてシッとポーズをとる。
「『誰かさん』。この話は他の人に教えちゃダメだぞ。これは死んだ人間だけが知ることができる極秘情報だからねぇ」
「死んだ人間だけが知る……。それならなんで私に……」
「さあ。もう商店街だよ。ついておいで」
岡は息吹戸の言葉を遮ってずんずん進んでいった。ポツンと取り残された息吹戸は不安から両手を揉み合わせた。
(死者だけが知る情報をなんで話してくれたんだろう? 口の堅さ? それとも……私はもう……)
思い出そうとしても真っ暗で何も見えない。モヤっとした嫌な気分が『私』の心に広がった。
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