第13話 回収して撤退する・しない?
縄を切る道具がないため、『私』は捕縛されたままの津賀留を肩に担ぐ。軽いと感じてからハッと我に返った。
(人を担いでも軽いっていうか平気だと!? なんだこれすっごい力持ち! 流石夢! なんでもできるね!)
「って、蛇いっぱいきた!?」
感心していると、天から半透明な蛇があちこちに下りて来た。こちらは人と同じ幅であり、降りると傍にいた白いローブに絡みついて噛みついた。あちこちからくぐもった悲鳴が聞こえてくる。
長居はまずいと『私』が踵を返したときに、津賀留は激しくジタバタしながら、「あち、あちらに! あちらに、あちらに!」と倒れている白いローブを示した。足首に半透明の蛇が噛みついている。
『私』は顔だけそっちを見た。
「あ、の人も、おねがい! おねがひ、します! はこふでくださ、い!」
津賀留が口から泡を吐きながら必死に訴えるので、『私』は反対の手で白フードを示す。
「あの人?」
「は、い。小鳥さん、たすけ、てくだ、さひ! 私より、たす、けてください!」
津賀留が全身を使って頷いた。
『私』は二人は知り合いなんだとサックリ考えた。この様子だとあれを見捨てたら後々面倒なことになると感じる。
「りょーかい」
『私』は津賀留を担いだまま、急いで小鳥の救出に向かう。
「えい!」
走った勢いを乗せて蛇の頭頂部を蹴る。サンドバックのような感触だ。続けざまに蛇の目を蹴り上げる。一度目の蹴りで緩んだ締め付けが、二度目でするっと離れて天に戻った。
(今だ!)
半透明の蛇が離れた瞬間、白いローブの胴体を思いきり蹴った。
屋上のドアに向かって、ホバークラフトのようにズザーッと白いローブが滑っていく。
あまりにも雑な扱いをみた津賀留が「ああああ!」と悲鳴をあげた。
「よしよし。ドアまで転がってけー!」
『私』は嬉々としながら白いローブを追いかけ、転がる勢いがなくなりコロコロ転がり始めたところで、ひょいっと拾い上げる。
(ん? 軽い?)
背丈から成人男性だろうと予想していたが、体重が軽すぎている。津賀留と同じくらいかもしれない。
(軽い方がいっか。あとはこの人が津賀留ちゃんの知り合いで合ってるかどうかなんだけど……)
「この人であってる? 顔確認しようか?」
津賀留はうんうんと全身で頷いた。
「あって、ます。服のよごひぇと胸、手の、袖に血が、あれは、代わりに……」
「あってるならいいよ。人違いであってももうやり直しはきかないから」
『私』は肩に津賀留、小脇に小鳥を抱えて全力でドアに走った。人間二人分の重量が加わっても速度に一切の衰えはない。
「ヤンキーお兄さん! 回収したから撤収うううう!」
ドアに近い方の魔法陣でドンパチやっている祠堂に声をかける。
そこは炎や風や水の攻防が繰り広げられており、特撮映画のエフェクトのように派手であった。熱も風圧も振動も感じられる。とてもリアルに作り込まれている夢だと『私』は感心する。
「分かった!」
祠堂がこちらを一瞥して右腕を天に伸ばした。
ハンドボールほどの淡い緑の球体が光を纏い、手のひらから浮かび上がった。
「刃っ!」
祠堂を中心に風が広がった。
天から下りていた六本の半透明の蛇と黒いローブたちが、切り傷を負いながら吹き飛ぶ。
ズタズタの姿となった半透明な蛇がするすると天に戻り、黒いローブたちは地面に激突して、そのまま動かなくなった。
黒いローブは戦闘不能になったと判断して、祠堂は合流するためにドアの方へ駆けだす。
術者沈黙により儀式は中断。生贄を二名救出した以上、時間が経てば影響力を失い禍神はこの世界に干渉できなくなる。
祠堂は白いローブたちを一瞥した。
続々と半透明な蛇に噛みつかれ、中には頭から飲み込まれている者もいた。彼らは術に囚われているので一人では動けない。
禍神が攻撃をしている以上、全員を救出することはできないだろう。被害を最小限にできたと手を打って見捨てるしかないと、そう割り切ろうと思った。
「おい。その二人を抱えてすぐにビルから逃げろ」
「うわ!?」
真後ろから祠堂の声が聞こえて、『私』は驚いた。
「びびった。もう追いついたんだ。もともとそのつもりだけど、ヤンキーお兄さんは? そんなフラグ立てるってことは、ここに残るってことなの?」
「フラグってなんだよ。このビルはまだ禍神の支配領域だ。儀式を完成させるために躍起になる。俺が殿をつとめるから先に脱出しろ。そいつらが奪われたら元の木阿弥だ」
「うーん。生贄助けに行くのは良い心がけだけど、間に合わない気がするなぁ」
祠堂の肩越しに、交叉した骨を刺繍したスカートがひらりとはためく姿がみえた。
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