第128話 半神半人でした
息吹戸は「ありがとうございます」と、恭しく一礼すると、微笑を浮べ眉を八に下げる。
「無知ゆえに教えて頂きたいんですが、天路世界は菩総日神様の他にもに神様がいるんですか? この世界は唯一神の概念だと思っていたんですが」
「菩総日神が唯一神なのは正しい。あの方が我々を構成した父であり、母であり、制作者だからねぇ。私達は半神半人だ。下級神と呼ばれることもあったねぇ」
(下級神。半神。神と人との間に生まれた存在で、神には至らないという意味ね。そんな存在もいたなんて……)
半神半人は不死なる神とは違い寿命がある。
しかし非常に長命で若い姿のまま生き続ける事ができる。能力は常人のそれを超えていることが多く、神のような特殊な力を持つこともあるという。
『私』にとってはカミナシやアメミットがこの部類かと思っていたので、更に上の存在いたことに驚きを隠しきれない。
なんで禍神を倒しに来ない。と脳裏に過ぎったが口を滑らせることはしなかった。
「そう、なんですか。この世界の人は神の子孫っていうから、半神の集まりかと誤解していました」
「まーあ。間違っちゃいないけどね。言葉は。私は血肉を分け与えられて作られた最初の半神だ。世界の維持専門の半神だから世代交代なくて、殺される事もなかったからずっと仕事してるだけ」
「あー。なるほど。理解できた。菩総日神様は大きく分けて二種類の半神を作ったんですね」
「そうだよ。繁殖用の半神はどんどん世代交代したから。その結果、血が薄くなってしまって人間ができた。今は最大寿命二百歳くらいかな」
「いや待って。凄く長生き」
「そうか? 二百程度は短すぎると思うが?」
「私の世界では百生きるのも稀です」
「ふぅん。所変われば品変わるだねぇ。まあ。寿命が短くなった分、能力特化した者が増えてきてねぇ。時々こちら側に近い能力が備わった人も産まれている。突然変異、もしくは先祖返りってやつ。それを育むのが菩総日神の今の楽しみさ」
「貴女様の姿は菩総日神様が創造されたのですか?」
「そうだよ。菩総日神の知識を参考に産み出された者だねぇ。何人かいるよ。人間が認知できない場所、土地や気候、神界や次元の管理する者を『神の代行者』というんだ。お互いテリトリーから出る事はないから、顔を合わせることはまずないけどねぇ」
「なるほど。世界観設定の一部が分かったわ。さながら人間の進化を観察するための箱庭ね。テラリウムと言ってもいいかも」
息吹戸がすんなり納得したので、女性は苦笑した。
「驚くほど理解能力があるねぇ。この世界の理に縛られていない証拠かなぁ」
女性は、さて、と話を区切る。
「『誰かさん』……いや、便宜上、息吹戸と呼ぼう。息吹戸が地界まで来たのは、ここで発生した禍神を討伐しにきたってことで良いかな?」
「え? ここに禍神が降臨?」
「おや? 知っているから来たんじゃないのか?」
「そんな話は聞いてないです。私が来たのは……」
各地の霊園にアンデッドが現れていた事。
殆どのアンデッドは幻術だったが、霊園の一か所は本物が溢れ、死者の門が開いていた事。
それに対応していたカミナシの二名が、ウィルオウィスプの洗脳を受けて死者の門を通った事。
二人を正気に戻し救出するためにここに来たことを息吹戸は説明した。
「……という流れでして」
女性は腕組みをして明後日の方向に視線を向ける。
「ふぅん。そーいう事か。なら余計な事しちゃったかな?」
「二人をもう殺しちゃったんですか?」
先ほどのゾンビ無双に巻き込まれてしまったにかと思ったが、「まさか」と女性は笑いながら否定する。
「生者と死者はわかるからうっかり殺すこともないよ。余計なことっていうのはねぇ。この坂を途中で切っちゃんたという意味さぁ」
女性は坂を示しながら手で切る動作をする。それを目で追いながら、息吹戸は「切った?」とオウム返しをする。
「この坂は死者の国まで直通だったから、汚れた亡者がこれ以上、登らないように道を切断しちゃったんだ。でも生者はみていないねぇ」
それはつまり、東護も勝木も既に地界を通りすぎ、死者の国に行ったという事だ。
ちょっと不安になった息吹戸は、腕を組んで見上げた。
「ヤバい。死者の国の道探すとなると大幅時間ロス……間に合うかな?」
女性はドンと自信満々に胸を叩いた。
「丁度いい! 私も死者の国に用があるんだ。案内してあげよう」
「本当ですか!?」
「物見遊山であれば御帰り願うが、戦力であれば願ったりかなったりだ。あそこは占領されているから、正直、人手が欲しいんだよね」
「私で良ければなんなりと!」
「頼もしいね」
「頑張ります! ええと……。神様は何とお呼びすれば?」
「神名もあるけど、折角だから人名を呼んでよ。私の名前は岡亜紗だよ」
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