第11話 他の案がないのならば
役割分担を考えるとスマートな案だと思っていたが、祠堂が拒否するなら別の案を考えなければならない。『私』は腕を組んで屋上を眺めながら難点を絞り込む。
まず津賀留の場所だ。最低でも十人のフードをとって確認する必要がある。
次に攻撃。魔法陣を扱うことができるならば攻撃呪文も存在するだろう。黒いローブで確実に攻撃してきそうなのは動いている二人。他は魔法陣の維持をしていると推測する。
そして禍神の存在。薄いがこちら側に干渉できる可能性がある。神からの攻撃がくることも考えなければならない。
(一人でやろうとしたら、やっぱり津賀留ちゃんの位置が分からないと無理だ。奇襲しても違う人抱えたらゲームオーバーだし……)
『私』は腕を組んで考え込んでいる祠堂を見下ろす。
「何かよさそうなの浮かんだ?」
「……ファウストが攻撃に動いてくれれば他にやりようがあるんだが」
「却下」
『私』が即答すると、祠堂が呆れたように両手で顔を覆い「何故だ分からん」と不満を口にした。
「うんもう考えている時間がない。私一人で救出やってみるか」
「は?」
祠堂が手を放して見上げる。その目は酷く苛立ち始めた。
『私』は白いローブたちの動きに集中しているため、祠堂の変化に気づかない。
「ヤンキーお兄さんだったら、少しの間アレに応戦できると思ったんだけど。ゾンビ相手で精一杯なら協力させるのはちょっとねぇ。ヒントを教えるだけのキャラなら戦闘は無理なこと多いし、巻き込むわけにもねぇ」
「はあ? なんだって?」
祠堂から低く唸るような声が出てきて、驚きのあまり『私』の背筋がゾッとした。ちらりと見下ろすと、祠堂が憤怒の形相でこちらを睨みつけていた。逆鱗に触れたような荒々しい雰囲気を纏いながら、静かに聞き返される。
「もう一回言ってみろ」
(言ったら殺されそうですけど!?)
今は下手に受け答えをすべきではないと勘が働いたので、『私』は無言を貫く。
「俺があの程度の禍神に遅れを取ると、交戦ができないと、そう言ったよな?」
祠堂はゆっくりと立ち上がると、おもむろに『私』の右肩をガシっと掴んだ。頭に血が上っているため、先ほどまで巡らせていた全員生存の考えが全部ふっ飛んでいる。
「も・う・一・回・言・っ・て・み・ろ。誰が交戦できないって? 俺か?」
憤怒の表情で睨まれて、『私』は戦々恐々《せんせんきょうきょう》しながらも、怯まずしっかりと見据える。
「はいはい。なら救出するまでの間、囮をやってくれる?」
「やってやるよ。後でさっきの言葉を取り消せ! 絶対に取り消せよ! そこどけ!」
祠堂は乱暴に『私』の肩を後ろに押しながら離した。
そしてドアノブに手をかけて回す。
……が、鍵がかかっていると分かると、ドアを蹴って向こう側に飛ばした。
ドアはビュンと勢いよく飛んでいき、たまたま近くを歩いていた黒いフードの上半身にクリーンヒットした。黒いフードは「ぎゃ!」と悲鳴をあげながらドアと一緒に倒れて、そのまま動かなくなる。
他の黒フードたちは何が起こったか分からず固まったが、すぐにドアに注目する。祠堂を見つけるとザワっと空気が動いた。
「わーお。よく飛んだ!」
『私』ドアが綺麗に飛んでいく光景を楽しそうに眺める。
祠堂は『私』を一瞥しながら、「ふん」と得意げに鼻を鳴らして、屋上へ飛びだした。
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