第101話 雷が落ちかけた
丁度良いタイミングだと、息吹戸はすぐに通話ボタンを押す。
「お疲れさまですー! 今さっき霊園の……」
『息吹戸! 至急、木庭霊園に応援に向かってくれ!』
焦りを一切隠していない玉谷の声に、ただ事じゃないと息吹戸は眉をひそめた。
祠堂も同じ事を思ってか、振り返ってこちらにゆっくり歩み寄り、話に耳を傾ける。
「すぐに行けます。なにがあったのか教えください」
そう言った途端、北の霊園に彼雁と東護が向かっていた事を思い出し、言葉を続ける。
「彼雁さんと東護さんになにかトラブルが?」
『ウィルオウィスプが出現したのは知っているな?』
「はい。数が増えていると言ってましたね」
『木庭霊園に異常発生したと報告が入った』
「ウィルオウィスプの異常発生……」
息吹戸はウィルオウィスプについて思い出す。
別名ジャックオーランタン。彷徨い続ける魂であり、危険な道へ誘い、人を迷わせる鬼火だ。
玉谷の焦る理由を読み取り、息吹戸は静かに尋ねる。
「もしかして、誰か消えましたか?」
『……東護と勝木がウィルオウィスプに囲まれ、姿を消したと報告をうけた』
「ええ? まって部長。北区じゃなくて東区もウィルオウィスプが出現したんですか!?」
「なんだって!? 東護と勝木が消えた!?」
息吹戸が驚いて声を出すと同時に、祠堂も驚いて声を出した。
祠堂はヤベッ! と小さく呟いて咄嗟に口を押さえるがもう遅い。玉谷に存在がバレてしまった。
『……』
玉谷は少し無言になったが、そのまま話を続ける。
『勝木たちは東区が済んだあと北区へ行ってもらった。北区では、木庭霊園の一か所だけ、アンデッドが溢れており収拾の目処がたっていない。そのため、あの二人を応援に向かったのだが……このざまだ』
「ってことは、木庭霊園は幻術ではなかったんですね~」
『ああ。実体だと報告を受けた。その他の霊園は全部幻術だ。ゴーストを発見するのに手間取っているようだが、殆ど鎮火しつつある』
「そこだけ実体っていうのは怪しいですね。その霊園になにか仕掛けがあるかもしれません」
『根拠は?』
実は。と、発見した魔法陣が辜忌が仕掛けたものらしいと説明をする。芋づる式に祠堂の行動まで付け加えると、彼は居心地悪そうにソワソワし始める。
『なるほど。だから祠堂がそこにいるのか』
玉谷の声のトーンが、2つほど下がった。
静かな口調だがドスを効かせた低音ボイス。かっこいいと思う前に、息吹戸の背筋が凍った。
(部長が怒ってる気がする。なんで? 祠堂さんが突っかかってくるから心配してるのかなぁ? 部長は案外過保護かも。でもまぁ。祠堂さんに邪魔されたわけでもないし、心配掛けないようにそこら辺はしっかり伝えなきゃ)
息吹戸は片手で顔を覆いながら、ゆっくり息を吐く。
「協力して貰っているので、ご心配なく。この方とのトラブルもありません」
『……息吹戸がそう言うなら信じよう。再度伝えておくが、お前たちが争うと任務どころではなくなる。状況は常に考えるように』
息吹戸に伝えると同時に、祠堂にも釘を刺す。
『お前ら喧嘩して自滅するなよ、忙しいんだから勘弁してくれ』という心の嘆きが聞こえるようだった。
「分かっています。では、現場に向かいます」
通話を切ろうとする寸前、玉谷が、待て。と引き止めた。
『息吹戸お前、自転車で移動しているそうじゃないか。それでは現場に間に合わない』
中央区の端から端に移動する。自転車だと直線距離で三時間はかかるだろう。
『さて、そこで話を聞いとるよな祠堂。? 勝手に息吹戸の仕事に介入しないでほしいんだが……』
「……今回は喧嘩を吹っ掛けてないぞ」
『そのようだ。伝わる波動から負傷は感じない。だから今回は頼らせてもらう。儂からアメミットに君の協力依頼を出すので、息吹戸を北の霊園へ運んでほしい』
「はあ? なんで俺が」
確かに今まで運んできたが、その事実を言われるとなんだか恥ずかしくなり、祠堂は素直に頷けず悪態をついた。
『何を言っている。どうせ、今までの移動はしっかり手伝ったんだろう?』
玉谷は呆れたようにツッコミを入れた。
祠堂は、はー。と長いため息をはいたあと、ディスプレイを睨んだ。
「……そうだよ。ったく、玉谷さんよお。相変わらず細かい部分に目がいくな。何個目があるんだ?」
『君が個人的に第一課に関わることが多々あるせいだろう。推測だけでも正解にたどり着けるだけだ』
祠堂の行動パターンは把握しやすいと暗に意味している。
「くっそ。喰えない爺さんだ」
「祠堂さん。部長は爺さんじゃなくでダンディなおじさま!」
祠堂が皮肉を言った瞬間、息吹戸が怒気を孕んだ口調で言い放った。目の前で推しを卑下され苛立ち目を吊り上げる。
「同じ男でもなかなかあんな素敵な男性になれないんだから、表現には十二分に気をつけて!」
「へ?」
突拍子もない発言に、何事? と、祠堂が目を白黒させる。
「全く。玉谷部長が存在する有難みが解らないなんて信じられない。俳優顔負けの国宝級ダンディおじさまだというのに。祠堂さんは若者だから部長がいかに上手く歳を重ねているか、その凄さがわからないんだわ」
「……」
『……』
祠堂は新たな一面を目撃して固まった。
玉谷も賛辞を聞いて固まっている。
力説を終え、息吹戸は通常モードに戻った。
「では部長。他に何もないなら移動しますので通話切って良いですか? 何かあればメールでお願いします」
『あ、ああ』と掠れた声をだしつつ『頼むぞ』と強い口調で返すと通話を切った。
ディスプレイ消え、ふぅ。と小さく息をはいた息吹戸はリアンウォッチで時刻を確認してから、未だ固まっている祠堂をみる。
「では祠堂さん。道案内と運転ヨロです!」
呼びかけで我に返った祠堂はすぐにそっぽを向いた。数秒無言の後、諦めたように頭を搔いた。
「ったく、仕方ねえな」
そしてバイク停めてある場所に歩く。その後を追いながら
「お許し出たのでこき使う気満々です!」
にやにやしながら宣言すると、大きく視線をそらされた。
ウーウー。ウーウー
後付けのサイレンを鳴らしながら祠堂が運転するバイクは木庭霊園に急行する。
交通量や信号機が少ない道路を選び、速度を出して走り抜けていく。
アメミットとして正式に請け負ったので緊急サイレンを鳴らしている。一般車は道を譲ってくれるので、これならば40分もあれば現場に到着するだろう。
後ろに乗った息吹戸は地理を覚えようと周囲をキョロキョロするが、店の明かりは消え、民家の明かりや街灯、車のヘッドライトしか把握できなかyた。
ネオンがキレイだなという感想しか浮かばず、見回すのをやめる。
木庭霊園の状況を頭の中で反芻させると、にやにやっと笑みを浮かべた。
(ふふふ。今度こそ、本物のゾンビとグールに会える! どんな感じなんだろう、わくわくすっぞ!!)
好奇心で息吹戸の心臓は高鳴るばかりだ。
時刻は深夜を回っていたが、眠気は一切やってこなかった。
三章終了しました、読んで頂き有難うございます!
次回は四章となります。今度の舞台は地下世界? 死者しかいない世界をお楽しみください!
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