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おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ  作者: 森羅秋
第三章 アンデッド霊園屯あふれそう
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第100話 気がかりなあの子

「焦る気持ちも戦いたい気持ちもあるだろうけど、今はまだ成り行きを見守る時期のはず。もう後手の状態だから先手は打てない。だったら、現状を整理して予想して予測を立てる。動くときは躊躇しない。これがミッション成功の鍵だよ」


 腰に手をおき、ドヤァ、と得意げな顔で胸を張って宣言する息吹戸いぶきどに意表を突かれ、祠堂しどうは軽く瞬きをした。少し間をあけて後頭部をカリカリと手でかく。


「確かに。もう先手は打てない。となると、燐木りんきはこの近くにはいない。高みの見物しているはずだろうな」


「どのくらいタイマーセットしてるんだか。準備期間すごくかかっていそう」


 さぁな。と祠堂しどうは返事を返しながら黒いイヤーカフを左耳につける。ボタンを何度か押すと、彼の胸の前に空中ディスプレイが表情された。ノートパソコン画面くらいの大きさで薄い水色をしている。


 ディスプレイが3つほど現れると、それぞれの画面をタッチしたりスクロールしながら、霊園事件の情報を密かに集めている調査班の共有報告に目を通す。

 おもむろに胸ポケットから取り出した二つ折りの魔法陣を開き、画面に押し付けて映像を取り込む。


 数秒後、魔法陣を摘んでまた胸ポケットへ収め、詳しい解析を解析課に依頼した。


 この情報は後日カミナシにも渡され共有される。組織は違えど辜忌つみきは共有の敵だ。辜忌つみきに関しての情報は些細な事でも共有するルールがある。

 

 ほわぁ。と息吹戸いぶきどは興味津々の眼差しでディスプレイを眺める。覗き見防止が設定されており、祠堂しどうの周囲を歩いてみても何も見えなかった。

 不審な動きをする息吹戸いぶきどに集中力を解かれた祠堂しどうはディスプレイを閉じて顔を上げた。


「なに人の周りをぐるぐる回ってるんだ?」


「見えないから凄いなって」

 

「そりゃそうだ。俺の目しか確認出来ないよう組まれているからな」


「さっきは何をやってたの?」 


「幻術の詳しい解析を依頼した。辜忌つみきが関わっているなら、霊園の事件はアメミットも加わる事になる。正式に調査に加わる様に部長に進言する」


「アメミットは辜忌つみきが起こす事件は全部関与するんだ?」


「!?」


 祠堂しどうに顔が険しくなる。

 ええと? と息吹戸いぶきどが聞き返すと、後方にジャンプして大きく間合いをあけて、瞬時に戦闘態勢をとる。


「幹部が起こす事件は必ずこっちが介入する、って言ってるだろーが!」


 一気に緊張感を纏い、戦闘に備えるように和魂にぎみたまを薄く浮かび上がらせる。


「あのー」


 息吹戸いぶきどは呆れたような声をだす。確認するために問いかけただけだが、祠堂しどうには異議ありとして聞こえたようだ。


(これは。息吹戸いぶきども仕事中毒の可能性があり。気に入らない事は武力行使していたっぽいなぁ。全く、幼児の癇癪かんしゃくか)


 周囲の苦労を想像して息吹戸いぶきど自嘲じちょうを浮かべる。それが祠堂しどうには冷笑に見えた。更に警戒を増しながら吠える。


「いくら文句あろうが、暴れようが、乗り込んで抗議しようが、これだけは譲らねえぞ!」


 息吹戸いぶきどは両手を広げて、やれやれ、と肩をすくめた。彼女にそんな意志はない。


「ちょっと聞いただけなのに。……そうだね。それが規則なら仕方ない。でも、カミナシも関与していいんでしょ? 元々こっちの仕事だし」


「……はあ?」


 予想外の返答を聞いて、祠堂しどうは間抜けな声をあげた。一瞬フリーズしたのち、ゆっくりと、ゆっくりと警戒を緩める。


 息吹戸いぶきどは腰に添えていた両手をだらんと垂らし、休めの姿勢になって攻撃意志はありませんとアピールする。


「基本的に私は指示されたことをやっていくだけだよ。まぁ、部長には霊園で手に入れた情報は全部報告するけど」


 それ構わないでしょ、と付け加えると、祠堂しどうが目をぱちくりさせながら凝視する。


「それは別に、構わないんだが……」


 祠堂しどうはすっかり構えを解いて、茫然と立ち尽くしていた。


 屍処かばねどころの情報に飢えており、独りで対決したがっている息吹戸いぶきどの態度とは思えない。混乱した祠堂しどうは額に手を当てて、視線をそらした。


 考え込んでいる祠堂しどうを眺めていた息吹戸いぶきどだが、数秒で興味を失い、リアンウォッチに視線を落とす。

 小さなボタンがいくつかある。その中に押したことのないボタンもある。どんな機能が備わっているのか想像しただけでも心弾む。

 でも今は触らない。下手に触って壊すのは嫌だった。時間をとって津賀留つがるから使い方を学ぼうと決めている。

 

 通話ボタン表示ディスプレイを出そうとして


「なあ。ファウストの現身。聞こうと思ってたんだが」


 なんだろう。と息吹戸いぶきどは視線を前方へ向ける。祠堂しどうは視線をそらしたまま首元を触りつつ、躊躇ためらいがちに口を開いた。


「なにかあったのか?」


「なんでそう思うの?」


「少し前から違和感がある。拘りが消えたというべきか……。猪突猛進だったのに、今は一歩引いて全体を見定めているような気がする」


 息吹戸いぶきどは意味がわからないというように首を傾げる。平静を装っているが心臓はバクバクである。


(うわぁ。まだ別人だってバレていないみたいだけど、『息吹戸いぶきど』と『私』のズレで混乱してるよ。別人だって教えてもいいけど、確証がないうちに言うのは混乱を助長させるだけだし。記憶喪失も内緒だから……ここは誤魔化そう!)


「そんな風に見えるんだ。……少しばかり、心に余裕を持たせようと意識してるだけ」


「余裕をもたせる? それは心境の変化か?」


 祠堂しどうの言葉を聞いて、息吹戸いぶきどは無意識に右手の人差し指を唇に添える。


「どうだろう? あったと言うべきか。馴染もうと努力していると言うべきか……」


 言葉選びが面倒になってきた。

 唇の前で指を一本立ててから


「今はナイショ」


 と、可愛らしく微笑んだ。


 祠堂しどうは目を見開き、頬を少し赤く染めて「何もなければいいんだ……」と、呟く。

 数秒後、我に返った祠堂しどうは失言したとばかりに口を押えた。そのまましばらく固まって。


「違うからな!」


 叫びながら指をさす。


「心配してるわけじゃねーからな! 単にこっちの調子狂うんだよ! わかったか!」


 耳まで真っ赤になりながら完全否定する姿はツンデレのようだった。

 面白いリアクションをみたとばかりに息吹戸いぶきどの目尻が波立つ。一言、二言、からかう言葉を投げてみたかったが今は仕事中だ。遊ぶのは程々にした方がいいと口を閉じる。


「大体普段の行いが悪すぎるって言ってんだろ! ちょっと常識を覚えたからって調子に乗るな!」


「はいはい」


 息吹戸いぶきどは『どうどう』と手で制した。きゃんきゃん吠える犬をなだめるような気分である。

 祠堂しどうの態度に一切触れなかったことが幸を要したようで、彼は落ち着きを取り戻した。


「ったく! 気分悪りぃ!」


 両手を組んで背中を向けて小声でブツブツ毒づいている。


 息吹戸いぶきどは、はあ。と疲労の息を吐く。

 もう放っておいても大丈夫だろう。


 今度こそ部長に連絡をしようとリアンウォッチを触ろうとして、着信音と共に空中ディスプレイが浮かんだ。

 電話をかけてきた相手は玉谷たまやだった。


読んで頂き有難うございました。

更新は日曜日と水曜日の週二回です。

面白かったらまた読みに来てください。

物語が好みでしたら、何か反応して頂けると励みになります。

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