第10話 理不尽な作戦を思いつく
『私』は腰に手を当てて「ふーむ」と声を出した。
「まとめると、津賀留ちゃんを救出したらそれと同時に神様の実体化を阻止出来て万々歳ってことね」
祠堂は怪訝そうに眉を顰めた。何か言いかけたが止めて、地面にしゃがみ込む。左手で顔を触りながら考え込むように眉間に皺を寄せる。
「うたうから知らせを受けて追いかけたとはいえ、ここまで大事だったとは思わなかった。こんな禍神が降臨したら滅茶苦茶被害が出る。調査班め、サボりやがって……しかも津賀留がここにいるとかマジか……最悪の状況を覚悟しないといけないなんて……」
『私』に話しかけているわけではなく、独り言である。
「応援を呼ぶべき事案だが、降臨前に到着できるかどうか……」
「ねぇねぇ。ヤンキーお兄さん」
『私』が祠堂の目の前にしゃがむと、祠堂は驚いたように身を引きながら「なんだ」と返事をする。
「私ってもしかして、辜忌側の人間だった?」
「は?」
祠堂は目を丸くして『私』を凝視した。荒唐無稽な話を聞いて狐につままれたような表情である。
「何を言って……。お前はカミナシだろう?」
「カミナシ……? 神成し?」
(なんの略字か全然わからない……まあ夢だから気にしなくて良いか)
祠堂はぷいっと目をそらした。
「タチの悪い冗談だ。お前が辜忌側だって? そんなことになった瞬間から世界が滅ぶ」
「悪口っぽい気がする」
『私』がジト目で抗議すると、祠堂が勢いよく立ち上がった。
「やかましい。冗談を言うつもりならもっと笑えるようなものにしろ。センスの欠片もないぜ!」
荒々しく吐き捨てて彼はすぐに警戒しつつ距離をとった。心なしかビクビクしている雰囲気である。
『私』はそれを眺めながら立ち上がると、ため息を吐いて頭を掻く。
(友好的じゃないけど協力してもらえそうだから、それで良しとするか)
「おおまかな形が分かったところで、儀式をぶっ壊しに行こう!」
『私』がドアの向こうを見据えると、祠堂が「ん?」と肩透かししたような声を上げた。
「まぁ……できなくはないが……。禍神は半降臨してるから攻撃してくる。攻撃を掻い潜って生贄を全員救出となると、荷が重いと思うが……?」
「ヤンキーお兄さんは強いよね?」
祠堂がきょとんとした顔になった。
「少しの間、暴れて囮になってよ。その間に、私が津賀留ちゃんを救出して一緒に逃げるって作戦はどう? 神様と戦わないならハードルはグッと下がると思うんだけど」
『私』が自信満々に策を述べると、祠堂が怪訝そうに眉を顰めて、確認するように聞き返す。
「……お前は戦わないのか?」
『私』は首を縦に振りながら、戦闘員として数えないでほしいという不満を口の中で溶かす。
「うん。救出を第一にする」
「それは……」
「私の最優先は津賀留ちゃん救出だから。津賀留ちゃんを助け出して、ビルから脱出すればめでたしだよね!」
『私』がドンと胸を張るものの、祠堂は黙ったまま静かに見上げていた。囮役が気に入らないのだと思って言葉を変える。
「ええと、大声を出したり走ったり、少しばかり注意を引いてもらえばいいだけだから。怪我しない程度にやってもらえれば助かるってだけで」
「それは……ほかの奴らは見捨てる、っていう選択をするってことだよな?」
祠堂は重々しい口調で聞き返す。
予想外の内容だったので『私』はきょとんとした顔になった。
目的達成のためなら他を犠牲にする作戦だと改めて感じたものの、
「どうでも良くないけど。ミッションを成功させるためなら多少の犠牲は仕方ないと思う」
沢山の事をするよりも、一つのことに集中する方が成功率が上がると割り切った。
きっぱりと言い切った『私』をみて、祠堂は「……そうかもしれないが」と言葉を濁す。
生贄となっているのはれっきとした人間だ。死ねば悲しむ者がいるだろう。それを考慮すれば、津賀留だけ助けるという案を聞いて気後れするのは仕方ないことであった。
「でもさぁ。救出もだけど、神様がこっちにくるのはもっとダメなんでしょう? 二人で動くのなら救出する人数が少ない方が動きやすいと思わない?」
祠堂は儀式を中断させるためなら平気で生贄を犠牲にできる『彼女』に、畏怖の念を抱いた。
「た、しかに……しかし、いや、相変わらず容赦がない……だが、あいつらにも家族が……、しかし応援も間に合わないとなれば……うぐぐ」
窓の外をみて白いローブの数を数える。殆どが死ぬと考えるとどうも踏ん切りがつかない。
(うーん。困ったなあ。いい案だと思ったんだけど……)
祠堂が乗り気ではないと分かり、『私』は肩を落とした。
読んで頂き有難うございました。
話を気に入りましたら、いいねや評価をぽちっと押していただけると嬉しいです。
感想いつでもお待ちしております。