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十年前の手紙

作者: 津島はるか

ある朝、ポストを覗くと請求書や、DMに、一通の封筒が混じっていた。手紙が届くのは久々だ。「様」付きの宛名に擽ったさを感じる。差出人の名前はない。一体誰だろう、と首を傾げながら家に入り、DMや請求書をテーブルに放り、封筒に鋏を入れた。「あなたがこの手紙を見る時、私はこの世にいないかもしれません」一行目から不穏な書き出しにぎょっとしつつ、読みすすめる。「もしあなたが私のお葬式に出たあとならば、この手紙のことは忘れてください。あなたにパートナーがいた場合も同様です。もし、そうでなければ、あの約束を果たすために、あの岬にてあなたを待っています」その手紙の最後には、東京都内の住所と名前。消印は、10年前の、和歌山県M市。私の故郷。10年前、と私は頭の中のアルバムを捲る。私は、高校2年生だった。その時に交わした約束といえば、思い当たることが1つだけある。その時私には付き合っている人がいた。1つ上の先輩。今から思えば、おままごとのような恋だった。ごっこ遊びのような恋愛だった。だから、彼が東京の大学に行く事になった時、私から別れを告げた。最南端の岬で、風にびゅうびゅう吹かれながら、別れましょう、と声を張り上げた。東京には私よりずっとお洒落で、綺麗で、頭が良い、女性が沢山いるに違いないのだ。このまま遠距離恋愛を続けた所で私はきっと捨てられる。それならば、その前に手を離したほうが良い。そう、思った。彼は怒ったように私を見て、それなら10年、待って欲しい。10年後、ここで会えたら、結婚して欲しいと思っている、と言った。そう言ってから、慌てて付け足すように、待ちきれなければ待たなくていいから、と言ったのだ。私はその時の彼の、神妙な顔つきを思い出し、段々と顔が赤くなるのを感じながら、台所に立ち尽くした。日付と、時間だけメモ帳に書いて、封筒に入れ、宛先を書いた。

これからこの手紙が向かう場所は、この家から数駅しか離れていない。それでも、彼と会うのは、一番南にある、風の強い、海を見渡せるあの場所でなければいけないと思った。

私は机の引き出しから便箋を取り出し、そして文面を頭の中でひとしきりこねくり回して、そして諦めた。

真っ白い便箋に、書くのは、日時と時間だけ。伝えたいことはあるけれど、それは口で伝えれば良い。あの人が待っていてくれていますように。そう思いながら、急いで住所を封筒に書き写して家を飛び出す。郵便ポストに入れると、スコン、と小気味の良い音がした。

Twitter の、300字SSの企画に向けて書いたものを加筆修正しました。

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