書籍化! ~追放のみならず本にされた悪役令嬢。誰か、私を読んで下さい~
ジャンル悩みましたが、現状はコメディーだと思われ。長編だったら変わったかも?
「ファーブラ! 私は真実の愛を見つけた! よって、画策されたお前との婚約を破棄し、悪逆の魔女ファーブラをこの国より追放する!」
「お待ちください殿下!」
「ええい、聞く耳持たん!」
「殿下。彼のものは苟もその身は公爵令嬢、持っている権力は侮れません。急げば国の決定が広く行き渡る前に盤上を覆すまで行かずとも、国の混乱を引き起こす程度ならば容易でしょう。ここはこの場で口封じの魔法を施しておくべきと愚考致します」
「流石は私の愛するソルシエの傍仕え。実に理にかなった忠言だ。みな聞いたな」
私たちの周りを取り囲む貴族や魔法騎士団が、何処かぼんやりとした表情で頷いた。
「しかし、言葉を封じても文字があるか。とは言え、如何な大罪人であろうと令嬢の腕を・・・というのは紳士としてあるまじき行為。ここは・・・」
「クラートル様、ここは同じ淑女である私にお任せ下さい。誓ってクラートル様の御意向に背くことなくファーブラ様の口と文字を封じておきます。ですから・・・」
「殿下。急ぎ公爵家の動きを封じるべきかと。これは殿下にしか務まらぬことでございます故」
「ソルシエ、ベラーツァ。わかった、後は頼む」
殿下がこの場を去る。私は尚も声を掛けるが──
「ふふ、残念でしたわねファーブラ様」
「魔女め」
「あら怖い、でもそんなお姿も今日限りで見納めとなれば、少しは溜飲も下がりますわぁ」
ニタリと、内面の色濃く表れた笑顔を張り付ける男爵令嬢。
「本当に、外見だけは素晴らしいですものねファーブラ様は。流石はこの国一番の美貌の持ち主と謳われるだけありましてよ。私、嫉妬してしまいますわ。嫉妬し過ぎてこの国の貴族や魔法騎士団のみならず王子まで無意識に魔法で魅了してしまいそう。尤も・・・それも今日まで、明日からこの国一番の美貌の持ち主と謳われるのはこの私」
「なんてことを・・・」
「あなたは・・・そう、話も出来ず誰に見向きされることもない本にでもなっておしまいなさい!」
こうして私、公爵令嬢ファーブラは無駄に目のついた一冊の本になりました。
私ファーブラ、今、あなたの隣国にいるの。
さて、殿下の宣言通り国外へと追放された私。
絶賛行商人の馬車の中でドナドナされております。
表紙に変な目がある(閉じれます)上に中身は白紙という、一応は本の形をした私。
馬車の荷台の後方を流れる風景が何処か物淋しく見えるのは、気のせいではないのでしょう。
国の家族や仕えてくれている屋敷の者たちが気になりますが、こんな体ではどうしようもありません。本ですし。
僅かながらジタパタと動けなくもありませんが、微々たるもの。魔力まで使って疲れるだけです。
ジタパタ、想像するとちょっと可愛いかも。
詠唱出来ないながらも魔法を使えないか試してみるも、魔力が内に発生するだけで結果は伴わず・・・。
どうやら一時的に白紙のページへ文字が紡がれているような感覚はあるのですが、自分で確かめることも出来ません。
失敗しました。
行商人が品定めに中を見ていた時に試すべきでした。
あの時は男性に素手で無遠慮に肌を触られている感覚に気が動転して、軽くパニック状態でした。
今思うと悔やまれます。
焦っても仕方ありません。次の機会を待ちましょう。
──
────
──────誤算です。
あれから7日、行商人の方が市を開くたびに機会を見て試してみましたが、誰も紡がれているだろう文字に気づいてくれません。
何気にしっかりとしてる装飾のせいで少しばかりお値段高めだからか、誰も買いませんし。
悲しい。そして寂しい、苦しい・・・。
自分の思いが物理的に届かないことが、伝えられないことが、こんなに無力感や孤独に苛まれるものだなんて知りませんでした。
確かに何か紡がれている感覚があるのですが・・・。
これは最終手段で人前で目を開くしかないかもしれません。
どのような扱いになるか怖いので出来れば避けたかったのですが、このままではそのうち買われて日記帳か家計簿か、可能性は低いですがお絵かき帳行きもありえます。
ですが、視線でなんとか伝達する手段を確立出来れば、この事態の打開に繋がるかもしれません。
問題は悪魔本扱いされて燃やされる可能性が高い点ですが、確率で考えれば魔法書判定と五分五分。人を選べば・・・。
おや? いつの間にか新たな方の手に取られてページを開かれていたようです。
思考に耽っていて気づきませんでしたね。本を持つ手は素手のようですが、乱雑に扱う感じはありませんし、肌触りというか本触りが滑らか。これは・・・
なるほど、手を魔力が薄く覆っています。これなら素手も納得ですね、魔法騎士団でも公の場でなければ手の感覚を阻害する手袋は外すことが多いですし。
まあ見栄えを気にして外さない方もおりますが。女性への応対の度につけるのも面倒という方もおりましたね。
帯剣していないことから察するに、今私を手に持っている方は、恐らく現場主義というか常在戦場タイプの魔導士様なのでしょう。
「当たらずも遠からずといった所だな」
やはりですか・・・ん? いや、まだ早い。ただの独り言という可能性も──
「無きにしも非ず、か?」
え・・・・・・え゛!!? もしかしてもしかして私の文字見えてますか? 読めますか!?
「おー見えてる見えてる。ちゃんと読めるぞ」
ぅ・・・
「う?」
ぅああぁあああああ! うぇえええええん! 届いたぁああ! 私の声ええええ!
「おいおい、って? なんだ、お前泣くことは出来るんだな」
手を伝った雫と、その出どこを見て苦笑する彼。
私はこの時初めて、少年のようなあどけなさを残す彼の顔を涙で殆ど機能していない視界に映しました。
それから──。
私の出逢ったというか、私を見つけてくれた彼は実は隣国の王子様・・・なんてことはなく。
ちょっと・・・いえ、かなり変わった魔導士様でしたが、暫く行動を共にする内に判明した彼の実力は国家クラスでした。
どうやら、私の文字はページ内部に閉ざされて普通では見えないようになっていたらしく、私が頑張って鍛えれば見る人の魔法的な力量を問わず見せることも可能になるとか。
ただ、彼は私がそうなる前に、早くも私の国で上層部を魅了して好き勝手していた悪い魔女たちを軽く一掃し、みなに掛かった魅了の魔法も解いてくれて物語は晴れてハッピーエンド・・・
でもちょっと待って。
私、さっきから──正確には随分前からだけど──一言も話せてない。
ねえリベルタ? 私に掛けられた魔法もいい加減解いて欲しいのだけど。
「うん? すぐには無理だってあの時言っただろ」
うん。聞いたわ。出逢ったその日にね、大事なことだもの。
でも、あれからそれなりに経ってるわよね?
「だな」
それなら──
「お前のそれの解き方は特殊でな。力尽くは勿論、術式を理解したからってどうにかなるものじゃない」
聞いてないわ!
「言ってないからな」
しれっと言わないで頂戴。なら、いったいどうしたら解けるというの?
「それはな──」
それは?
「お前の物語を読んだ読者から一定以上の評価ポイントを貰うことさ! 書籍化出来るくらいのな!」
なんてことなの! 私の書籍化を解くために書籍化を目指さなければいけないなんて!
まるで悪い夢を見ているようよ。
──お願いです! 誰か、私を読んで下さい!
楽しんで頂けたでしょうか?
楽しめた、もしくはファーブラに掛けられた魔法を解きたいと思った方は評価ポイントを1つでも入れてくれると、もしかしたらファーブラの人間姿が見られるかもしれません。
大丈夫だと思いますが、この作品は(今の所)現実で書籍化されるorされた訳ではありません(念のため)。タイトルに書籍化しましたよとの意味で「【書籍化】」とつけている作者様とは違い、タイトルそのものが「書籍化!」です。
この作品は令嬢もの、婚約破棄もの、追放ものを書いた皆様、そして書籍化された皆様がいたからこその作品です。この場を借りて改めてお礼申し上げます。