第九話.拾った豚の行先
第九話.拾った豚の行先
豚頭族を神殿に連れてかえったら、たちまち大騒ぎになった。いわく不浄な魔物を街に入れるべきではないと、必死の形相で神官たちが説得に来るのには参った。
「前代未聞です!このような魔物は直ちに処刑すべきです!」
縮こまって正座させられている豚頭族の兄弟を指差して神官長が叫んだ。どうやらこの世界の社会通念上、異種の人間を街に呼び込むというのは禁忌のようである。神殿にはいるやいなや神官たちが豚どもを取り囲んで、縄で縛り上げてしまったのだ。相当嫌われているらしい。
「なんでだよ。別に良いだろ?」
「どうか、どうか、私の言葉をお聞きください!彼奴等は魔物です。人間の言葉を巧みに使おうとも、我等に仇をなす者なのです」
神官長はちらりと豚頭族を一瞥すると、すぐに視線を逸らした。
「これらは邪神を崇め、世界の破滅を企てる者たちです!今のうちに数を減らしていかねば、子や孫の世代に悪影響を及ぼします!」
「へぇあいつら、邪神を崇めてるんだ」
「はい」
「いやちょっと待て、本人に聞くから」
「おい」と声をかけると、兄豚はびくりと肩を振るわせてから、うわずった声で「ハイ」と返事を返した。ついに死刑を宣告に来たとでも思ったのだろう。
「お前たちは、どこの神を信仰しているんだ?」
「……は、はい。それはもちろん寛大な措置をとっていただいている太陽神様です!」
「それは俺のこと?」
「へえ。もちろんです、命を救って頂いた上にここに置いてくれるとは、偉大なる太陽の神の御慈悲に他なりません!」
神官長にも聞こえるような大きな声で、豚頭の長男がそう言った。
「無理はしないで良いぞ?」
「いや、故郷を捨てて逃げ出した俺たちには神の加護なんざありません。もうここで、新しい命だと思って生きていく他ないんです。どうかこっちで置いてやってくだせえ」
「だってさ」と言うような顔で神官長を見る。そうすると、はぁと大きくため息を吐いて折れた。
「ヘテプフェルは太陽の神を信仰するものは何者でも許します」
その言葉を聞いた豚たちは大いに喜んだ。
「ありがてえ!」
「良かったな」
そう言って、縛られていた縄を解いてやった。こいつらの本心はわからないが、まあこれでいいだろう。捨てる神あれば拾う神ありだ。
「では私はこれで……」
「あ、ちょっと待て神官長」
早々に帰ろうとするところを呼び止めた。まだ彼には用がある。やってもらわないといけないことが。「はい」と素直な声で返事があった。
「こいつら兄弟は仕事がない。何か神殿内の仕事を見繕ってこいつらにやらせてくれ。寝床もどこか適当な場所をくれてやれ」
豚頭族の兄弟を指差して、生活できるように面倒を見てやれと指示を出す。
神官長は絶望の表情を一瞬浮かべたが、さすがに大人である、わかりましたと聞き分けの良い返事を返した。
「宣言したんだから、ちゃんと信者として扱ってやれよ!太陽神を信仰をするものはみんな俺の子なんだからな!」
「はい」
神官に連れられて豚どもはどこかに消えていった。何度も大きくお辞儀をしていったところを見ると、感謝はしてくれているようではある。
「ま、野盗になるよりはマシかなぁ」
ぼそっと呟いて、玉座に戻るのだった。