第七話.世界のことわり
第七話.世界のことわり
「レイ様!この度は御国を御守り頂き、まことにありがとうございます!」
「ああ。どうも」
俺は、ひらひらと手のひらを振って適当に応える。神殿にある玉座の下には、さまざまな貢物が置かれている。穀物に果物、酒など。
挙げ句の果てには剣や槍なども、飾り立てられた立派なものが所狭しと並んでいる。
足元に跪いて感謝の言葉を述べているこの男も、酒を持って来たようだ。
なんだかわからないうちに勝った戦だが、前評判ではずいぶん劣勢に見えたらしい。それで翌日からは神殿の前に長蛇の列ができ、参拝者がかわるがわる何か手土産を持ってくるのだ。
「……いや実に素晴らしい御力で……」
なんだかんだと白髪の爺さんが世辞の言葉を述べているが、話はもう半分にしか聞こえていない。鍛冶屋の長だとか、商人の長だとかが次々に来て同じように褒め称えるものだから、最初は気分が良かったがだんだん飽きてきたのだ。
「末長くヘテプフェルの国を見守って頂けますように……」
「ああ、わかったよ。もう下がって良いよ」
「ははっ!なにとぞ……」
ぺこぺこと頭を下げながら金持ちそうな男が帰って行った。誰もいなくなった玉座でぼうっとしていると頭の中に声が聞こえた。
(おっ!ずいぶん信仰心を集めてるじゃない。かんしんかんしん)
「お、元神様じゃないか。バイトは上手く行ってるか?」
(いやあー覚えること多くて大変よ。なんかテーブルの番号がどうとか言われてさあ)
「あれ?ホールなのか。調理場じゃなくて」
(うん。あなたの代わりだって言ったら、可愛い制服持ってきて、給仕させられたんだけど?)
「ふぅん」
(ふりふりの制服だったよ。女装の趣味があるんだねぇ)
「俺のじゃねぇよ!」
どうやら店長は女の言う事を間に受けて、即日バイトに使っているらしい。すげえなあの店も、適応力がハンパねえ。
(でも初陣で良く勝てたね。豚頭族のトコはあのバカ女神の管轄でしょ?)
「へ?」
(だから、豚頭族の信仰は豊穣の神なんだから……)
「んー?あの。俺以外にも神様っているの?」
(そりゃいるわよ、えっ?教えてなかったっけ)
「ねえよ!」
(そうだったかにゃんー?)
「そうだよ!にゃんつけたら済むと思うなよ!」
ウーン。どうやら神様はいっぱいいるらしい。俺だけが無敵のスーパーパワーを持っていると思って浮かれていたが、どうもそうでもないみたいだ。
(基本的にそのあたりの土地は土着の信仰があるからさ。都市によってみんな信仰する神様が違うんだよ)
「うんうん」
彼女の説明ではこうだった。荒地のオアシスを中心に都市国家を運営しているへテプフェルには人間族が住んでおり、それらの主神であるのが太陽神であるこの俺だという事だ。
先日戦った豚頭族には彼らの都市があり、そこでは豊穣の神(バカ女神)とやらを信仰しているのだ。それ以外にも南方には蛇頭族。東方には猿頭族などいくつかの種族がそれぞれの信仰を持って暮らしているのだそうだ。
(それで土地の広さと信仰する人間の数、そして一人一人の信心深さが信仰ポイントになるんだよ)
「時々話に出てくる信仰ポイントってなんだ?」
(神様の力の源だよ。信仰ポイントが多ければ多いほど、大きな奇跡を起こせるのさ。逆に信仰ポイントがなくなると……まぁ消えちゃうよね)
「消える!?神様なのに?」
(だって人間しか神様を信仰しないでしょ?その人間がいなかったら私達もいないも同じ。魔物だなんだってヘテプフェルの民は呼んでるけど、豚頭族だって蛇頭族だって信仰を持ってる限り、私からみたら人間だよ)
「はぁ……」
王は魔物だとか言ってたけど、モンスターじゃなかったよな。確かに顔は豚だけど、文明はありそうだった。
「じゃあ豚頭のやつも太陽神を信仰するようになったら、俺の信仰ポイントが上がるのか?豚だけど」
(そりゃあね。でも改宗は大変よぉ……あっ、そろそろ時間だ。まぁそっちも神様生活頑張ってにゃん)
「ああ、わかった」
ぷつりともなく、それきり神様の通信は切れた。信者を増やして土地を増やすか、そうすれば神様として箔がつくってことだ。
そうなると、ひとまずはこの辺りを統一するのを目標にしてみるか。なんでもできるし、なんでも手に入るが、神様家業もそれだけじゃ暇だと思ってたんだ。
「とりあえず……外に出て、周囲の地形の把握から頑張るか!」