第五話.戦いの前夜
第五話.戦いの前夜
約束の一週間が経とうとしていた。ヘテプフェルの王は、魔物を迎え撃つために出兵した。
ヘテプフェルの戦士たちはそれぞれが鎖帷子に丸い盾を持ち金属製の兜を被っていた。武器はまちまちで剣や金棒を持ち比較的身軽な格好であった。
俺は軍団が整列して歩いていくのを見送って、王と共に後方から追いかけるようについていった。その姿は中世というよりも古代の軍団のような様であった。
王やその側近は馬に乗り、俺は六人がかりの神輿に担がれての出陣である。文字通りのお神輿で戦地に着くまでは地面に足をつける必要はないそうだ。
道すがら、隣を進む王であるヘテプセンに話を聞いてみる事にした。
「なぁ、敵の魔物ってどんなやつらなんだ?」
「不浄なる者たちです。豚の頭を持つ、豚頭族で邪神を崇めている者たちであります」
「はぁーマジで魔物なんだ」
「はい。邪なるモノを祭り上げる者を全て魔物と呼んでおります」
なるほど。
ここ数日で街を歩いて調べてみたが、街自体は大きな石の城壁で囲まれており、単一の民族が集まって住んでいる。都市自体が国家と同じような役割をしているらしい。今回の魔物が来るというのは別の都市からの侵略戦争のようであった。
「それで向かってくる豚頭のやつらをやっつければ良いんだよな」
「はい。彼奴等は我が土地の奪取が目的であります。万一我々が敗北すれば、ヘテプフェルの民は全て殺されてしまうでしょう」
「ふぅん。えげつないな」
「はい」
宗教が違うだけでなく、頭が豚だったらもはや話も通じなさそうだ。
「それであんたの戦いの時の作戦ってどんな感じなんだ?」
「下民からなる軽装歩兵を全面に、後方に主力の重装歩兵が守る神官隊。両翼は機動力に勝る騎兵隊を配置しております。おそらく豚頭族も同じように出てくるでしょう」
「へぇ」
軽装歩兵によって敵の隊列を崩して、主力の重装歩兵が敵を押しつぶす。小回りの効かない重装歩兵の側面は騎兵隊が守るということだろう。
「ところで神官隊って何だ?」
「魔法を使う者たちです」
「マジで」
弓も鉄砲もないと思ったら、魔法があったよ。
「この神官隊が、勝敗を握るといっても過言ではないでしょう。魔法による火力をどれだけ有効に働かせられるか、敵の魔法をどれだけ妨害できるか。それに全てがかかっています」
「はぁ……魔法ってすごいんだな」
「人智を超える神秘ですので。それの最たるものがレイ様であります」
つまりは戦士は神官隊の盾だという事だ。ともかく魔法を使えるものを守る。逆に言えば敵の戦士を突破して敵の神官隊を沈黙させられれば、勝利は間違いない。
「じゃあ俺も頑張るかな」
この間からずいぶん『射よ』の練習をしていたから、火の魔法についてはバッチリである。
「レイ様よりそのようなお言葉を頂戴できるとは、この上ない光栄であります」
「そうか。じゃあ一緒に頑張ろうな」
「はい」