第四話.荒野とタカと光の矢
第四話.荒野とタカと光の矢
赤い荒野には何もない。何もないというのは語弊がある、砂と角ばった大岩。そして小さな甲虫のような虫。それくらいはいる。
毎日ご馳走を用意してくれるのだが、神殿の玉座で座って過ごすのはいささか飽きた。代わる代わる人間たちが歌って踊るのだが、それも三十分もしないうちにご馳走様だった。
近くの人間に外に出ると言って街の外に繰り出したものの、荒野の真ん中にぽつとある街の外には面白いものが転がっているはずもなかった。
「射よ」
そう唱えて、手近にあった大岩に指先を向けると。光が一筋それに吸い込まれていった。大岩は真っ赤に染まったかと思うと、半分えぐれるようにどろりと溶けた。
「うお!?石が溶けたぞ!」
石が溶けるって摂氏何度だ。
(そりゃ溶けるわよ。太陽神の力を馬鹿にしてない?)
頭の中に声が響いた。
「おっ!神様、今日は探偵事務所に出勤は良いんですか?」
さすがに頭の中に直接聞こえる声にも慣れた。暇なのでからかってみることにした。
(……そうだ!探偵事務所だっていう住所に行ったら、消費者金融だったんだけど!?もう少しで借金させられるところだったじゃない!)
「はははははっ!よく逃げられたな」
(逃げられたなじゃないって!本当に危なかったんだから!)
「あ、今日は何曜日だっけ」
(えと……火曜日?)
火曜日か。地球では火曜日はバイトの日だったな。仕事を代わるなら彼女には働いて貰わなければならないぞ。
「火曜日はファミレスでバイトがあるんだ。代わりに行ってお仕事しておいてね、元神様」
(はぁ、ファミレス!?)
「うん。あれ?俺言わなかったかな」
(聞いてないんですけど!)
頭の中に直接、慌てたような声が聞こえる。
「ああ。まぁいいや十七時までに入らないといけないから頑張って」
(後三十分じゃん!?急がないと、もう切るね!)
「はいはい」
そう言ったきり、元神様の声は聞こえなくなった。あの神様、本当に俺の仕事を引き継ぐ気なのか。全く素直なのか馬鹿なのか。
どちらにせよ、何もない荒野にまた一人で取り残されたわけだ。
「とりあえず、もう一回試してみるか」
空を見上げると高い太陽の下に、猛禽類らしい大型の鳥の影。クルクルと旋回しているようだが、何を狙っているのやら。さて、近くのものを撃ち抜くことはわけないが、高速で飛ぶハゲタカを撃ち落とすことはできるだろうか。
いつも通りの「射よ」という掛け声とともに、光の矢が一瞬で上空に飛び上がった。
鳥の影と光が交差した瞬間、一瞬だけぱっと明るくなってそれっきり影は消えてしまった。凄まじい精度と速度だ、これならヘリコプターすら撃ち落とせそうである。
「良いじゃん!」
ご機嫌になった俺は、日がくれるまで光の矢の練習をして遊んだのだった。