第三話.神の力
第三話.神の力
黄金で飾られた謎の玉座に座らされて、俺は頭を抱えていた。夢だ夢だと思っていたが、夢が全然覚めないのだ。
昨日召喚されて、歓迎の宴だと一日中飲めや歌えやの大騒ぎ。一度寝て起きてもまだ半裸で神様ごっこを続けている。途中雨が降りそうだったから、「晴れたら良いのに」って呟いたら本当に晴れた。
「なんだよ、なんで俺はこんな。本当にあの女、神様だったとでもいうのか?馬鹿らしい」
(あら、今頃気がついたの?)
「……」
頭の中に直接声が聞こえる。ついに何かヤバい事になっちゃったのか、俺は。
(あーあー、聞こえますか?私は神です。あなたの前任の神様ですにゃ)
呑み屋で出会った女の声がする。
現状把握で忙しいのに、あんな奴と話をしたらもっと混乱しそうだ。つとめて無視を決め込んだ。
「これからどうなるんだ……」
(もしもし、私の声が聞こえますか)
「……ウーン。自分の置かれておる立場を分析しないとな。これが夢なら覚める方法は」
(私は神です)
目を閉じて下を向く。精神を集中すると、内なる自分と会議をすることができる。
(わわ、私はー神様ですーにゃー)
「うるせえよ!」
(にゃーにゃー)
あまりにも左右の脳味噌から直接声がするので、反応してしまった。
(あなたは神になりました。これからその務めを果たさなければなりません)
黙って両耳を手で塞いでみた。ごぉおっと何の音だわからない音がする。
(耳を塞いでも無駄です)
それでもやっぱり女の声が聞こえてくる。骨伝導なのか?直接頭蓋骨を振動させているのか?
「はぁ、それで。神様の務めって何だよ」
(民衆の信心を集めて、正しい方向へ導くのです。信心ポイントが足りないと神様パワーが低下するので、人気取りが重要です)
「ゲームかよ!」
(神様も人気商売なんだにゃあ)
はぁ。そんなふうに一つため息をついて、椅子に座り直す。
「信心を集めるにはどうしたらいいんだ」
(それは民衆の心を掴むことです。民衆の望みを叶えてやるのも良いでしょう。悪神を駆逐して改宗させるのも大切な務めです)
「魔物が来るから助けてって話だったな。神様パワーってどんなことができるんだ?」
(それは……あ、今から探偵事務所に出勤だから通信を終わるにゃん。神様パワーについては人間共から伝説を聞いてみればわかるでしょー!)
こいつマジか。あのデタラメな住所に出勤する気なのか?まぁいいか。こっちはこっちで神様家業が忙しい。
鉄は熱いうちに打てというので、昨日の神官を呼び出して、神様パワーについて聞いてみることにした。
青白い顔で顔の下側だけが膨れた、じつに不健康そうな男だ。
「お呼びでしょうか、レイ様」
「うん。俺の神としての伝承を聞きたい。まぁスペックを知りたいというか」
「ははぁ。それはもう星の数ほどありますが」
「適当に話せ」
ぶっきらぼうな要請に、少しだけ怯んだ様子だったが、神官はすぐに気を取り直して話し始めた。
「太陽の神レークァタルゥ様といえば、世界が生まれ、太陽が作られたその日にお産まれになりました。日の出とともに黄金の船に乗り地上に降り立ち、世界の半分に光をもたらしたとされております」
「うん。それで?戦いの記録はあるか。魔物とやらと俺は戦えるのか」
「太陽神レークァタルゥ様は、日のでているうちは死ぬことは無いとされています。朝も昼も夕方も不死身であり、夜は命を失いますが、日の出とともに蘇ります。身体の中を太陽と同じ光の血潮が流れており、槍でついても剣で切っても、傷を負わないとされています」
「無敵じゃん」
「ハイ」
結構ハイスペックなようで良かった。
「あとは……」
「うん。もう良いや、ありがとうね」
そう伝えると、神官は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。呼び出されたと思ったらすぐに帰れというのだからそうだろう。
「ハイ」
神官はうやうやしく頭を下げると、その場を去った。