第二十八話.ヘテプフェルの長所
第二十八話.ヘテプフェルの長所
「ヘテプフェルの長所ってなんだと思う?」
考えてもわからないので龍神にそう聞いてみた。すると、酒を呑む手がぴたと止まり一瞬驚くような表情を見せる。
「我にそれを聞くのか」
「だめかな」
「いや、駄目ではないが……そうだな」
龍神は視線を左上の虚空に彷徨わせて、何かを思い出しているような仕草をとる。薄暗い祠の中を、赤く光る目がゆらゆらと揺れている。
「ヘテプフェルの民は何度か見るが、装飾品を身に付けているものが多いな」
「金ピカのやつだよな、たしかにそうだ」
庶民は別にしても、王も神官もやたら金の装飾品をつけているのが多かった印象だ。俺も首飾りやらなにやら、金の装飾品をいくつも渡された。そうか、これは金が取れるということか。
「金が取れるのか!?」
「我にはわからんが、可能性はあるんじゃないか。それに最低限、加工の技術はあると言うことだろう」
「なるほど、技術かあ!それは盲点だったな。物質的なものでなくとも良いわけか。なるほどな、なるほど。」
金が取れれば申し分ないし、それがなくとも加工の技術を伸ばしてやれば、外から輸入して加工して貿易することもできるか。これなら長所を活かせるかもしれない。貿易によって、他国の食糧なんかも手に入るしな。
全部自国でやろうとして、砂漠に農場を作ろうとしていたのが恥ずかしくなってきた。
「いやあ、ありがとう龍神!参考になった」
「ふっ、ははは」
それまでクールに決めていた龍神が、堪えきれなくなって大きく笑った。
「なぜわらう」
「いや、こんな神ははじめてだ。大抵の神は他の者に教えを乞うたりはしない。なにせ自分の言うことが一番正しいわけだからな」
「いや。神様たって、新入生なわけだから。失敗だってするし、わからない事は聞くだろうさ」
大笑いしながら、龍神は続ける。
「なるほど神様の一年生か。太陽の神よ、我はお前を気に入ったぞ!」
「そりゃどうも」
なんだかバカにされている気もするが、悪い気はしないのは龍神の人柄によるものか。
「先輩神として、なんでも聞け。相談に乗ってやろう」
そう言いながら、酒を注いでくれる。かぱかぱ呑んでいるが、全然気持ち悪くはならないのは酒が上質なせいか、それとも体質のおかげだろうか。
「そうだな……さしあたって一つ教えて欲しいんだが」
「うん。なんだ太陽の神よ」
「あの。トイレはどこだ?」
神様パワーで酔ってダウンする事はないものの、出るものは出る。さっきから気になっていた質問をぶつけてみたのだった。