第二十七話.龍神さまと意気投合
第二十七話.龍神さまと意気投合
かあっと熱いモノが喉を通り過ぎる感触。久しぶりの日本酒だ!いや日本酒かどうかはわからないが、同じようなものだ。
「かぁあー!これは美味い!」
「お、わかるか?太陽の神よ」
「いやあ久しぶりだよ、こんなお酒は!ヘテプフェルじゃ果実酒しかなかったからなぁ」
「へぇ、そっちはぶどうか?」
「うーん、なんだかわからんけどね。ワインっぽいやつもあったけど……俺の口には合わなかったね」
いや美味い。ともかく酒を褒めると龍神さまも上機嫌で、まぁ呑め呑めと勧めてくる。
それじゃあともう一杯。
「これは水が良いんだろうなぁ」
「それはそうだ。我は水の神、そしてこの地は水の国。水の澄みたるはこの上なしってな」
「ほぉー」
男二人で向かい合って酒を呑む。美味い、美味いがやはり物足りない。
「はぁ、これは相当な美味さだけど。やっぱり酒の肴がないとつまらんなあ」
思わずボソリと呟いた。ウワバミじゃないんだから酒だけをごくごくいけるもんじゃない。
「はははっ。正直だな」
龍神は楽しそうに笑った。
「しかし、悪いが肴はないぞ」
残念だなと思った時に、ふと布袋に塩を詰めていたのを思い出した。ヘテプフェルは塩が取れる。海でもないのに塩が取れるというのは変な感じだけど、岩塩が取れるらしい。
「龍神さま。塩ならあるぞ」
「ほぉ、塩とはなかなか」
ぺろっと塩をひと舐めして、酒を一口。
「案外イケるな」
「うむ、良いものを持ってきたな」
塩を舐めながらの酒盛りが続く。
それから、くだらない話を一つ二つ。少し間を開けて本題に入った。
「それで、太陽の神よ。何を求めてここに来たのか聞こうか」
「俺の国、太陽神の国であるヘテプフェルに水を引きたい。水の神であるあんたに力を貸してほしい」
「ふうん。水がないのか?」
クッと一口呑んでから、龍神さまがそう言った。
「オアシスはあるが、なにせ乾燥地帯だからな。やはり水が絶対的に足りないんだ。開墾して作物を増やし、人を増やすためにはもっと水がいる。協力してくれないか」
「ふうん」
俺の熱弁虚しく、彼は気のない返事をする。
作物を維持するには水が必要だ、もっと食い物を増やして人口を増やしたいのだ。
「だめだ、断る」
「なぜ?」
「砂漠には砂漠の、森には森の、泉には泉の土地にはその土地なりの固有の性質というものがある、それで良いんだ。塩が取れるところから取れぬところへ、酒が美味いところから水のないところへ。人も物も流れていかねば、よどんで腐ってしまう」
「はぁ、そんなものかなぁ」
うーん。たしかに、なんだか一理ある気もする。
「山を均し、泉を埋め、砂漠に水を沸かせる。土地を全て人間の都合に合わせて改変するというのは、世界の均一化だ。それはいかん、濃淡がなければ水にも人にも流れが生まれぬ」
「そんなものかな」
「そんなものだ」
しかし、俺にもヘテプフェルを拡大して勢力を伸ばすという目標がある。
「俺はヘテプフェルの民を栄えさせたいんだ」
「ん。ははっ!神がそこまで言うとは、お前の国の人間は幸せものだな」
「だから……」
何か言おうとすると、被せるように龍神が口を開いた。
「長所を活かす方法を考えてはどうだ?わざわざ砂漠に水を湧かせ、畑をこしらえても、もとより肥沃な土地には敵うまい。適材適所、ある場所からない場所へ流していけば良かろう」
「ウーン、長所か……」
それっぽく言いくるめられたが、ヘテプフェルの長所ってなんだろうな。