第二十四話.物理で殴ればいい
第二十四話.物理で殴ればいい
「では行ってくるぞ」
王や神官たちに、旅立つ事を伝える。豚三兄弟も今回は留守番である。蛇頭族の商隊と共に、彼らの国に向かうのだ。
「はい、ご武運をお祈りしております」
ヘテプフェルの王はクマのできた目でこちらを見た後、頭を下げてそう言った。なんだか毎晩、幽霊が寝室に出るというので最近寝不足なのだそうだ。かわいそうに。
「ご武運って言ったって、別に戦いに行くわけではないんだぞ」
「承知しております」
そう言いながら、王は含みのある笑みを見せる。
「先日の豚頭族の国への一騎駆け、素晴らしいご活躍でございました。我がヘテプフェルの名声も、グングン上がっております」
どうやら、豊穣の女神にお願いに行ったのを勘違いしているらしい。単身乗り込んで、向こうのボスを叩きのめしてしまったのだと伝わっているようだ。まぁ結果的にはそうだったんだけどな。しかしそれだと腕力で何もかも解決する神様だと思われるじゃないか。
「聞け、ヘテプフェルの王そして神官よ。俺は今回は荒っぽいことはしない。蛇頭族の文化を、街を見学しその風俗を楽しもうと思っている」
「ははっ!」
「可能であれば蛇頭族の神と面会をしてみたいものだが、断じて戦いに行くものではないぞ」
「……はい、承知しております」
王らにそう言って、俺は神殿を出る。
すると出口にはヘテプフェルの兵士達が見送りにきていた。彼らはラッパのようなものを吹き鳴らし、勇猛な音楽を奏でている。
音楽に後押しされながら、兵士が並んで作った人の道を、蛇頭族の商隊と俺が進んで行く。ふと、蛇頭族のオレンジくんをみると白目を剥いている。
「おい!なんて顔してるんだよ」
「はっはい。しかし、これでは我々は自国に弓引く仇人では……」
「だから、別に俺は戦いに行くわけじゃないんだよ。大丈夫だって」
「はい……本当に、お願いします」
「もちろん。俺だってそんな戦争ジャンキーじゃないから!な、大丈夫」
そうして俺たちは、蛇頭族の国に向かって出発したのだった。
……
「地獄のサソリが出たぞー!!」
地獄のサソリ。
乾燥地帯に生息する、オスでは全長四メートルにもなる巨大なサソリ形の生き物。心臓と脳を二つ持っており、異常なほどの生命力と分厚い外骨格による防御力を誇る。そのハサミで人を挟みこみ、生きたまま内臓を溶かしてその液を吸うと言われている。
「逃げろー!地獄のサソリだー!!」
こんな至近距離まで接近を許したのは、その擬態能力のせいである。砂山に擬態して、商隊が通るのを待っていたのだ。真っ直ぐな商隊の列が崩れ、前後で散り散りになる。
「か、神様!お助けを!」
「地獄のサソリに狙われたら我々はおしまいです!」
馬車の荷台で昼寝していた俺も、流石にこれだけの騒ぎになれば目を覚さざるを得ない。
そこに蛇頭族の商人達が、助けを求めて集まっていた。
「地獄のサソリって、ネーミングセンスがイマイチだな!」
そう言いながら、荷台から飛びおりる。すると、ちょうどオレンジくんがハサミに捕まっているところだった。頭の上に複数ついている、意思疎通ができそうにない目玉が一斉にこちらを見た。
「おい、地獄のサソリ!そのオレンジくんは俺の友人だ。今すぐ解放しないと神罰が下ることになるぞ」
「た……助けて……」
オレンジくんが泣きながらこちらを見ている。巨大なハサミに挟まれてちょっとかわいそうだ。地獄のサソリは俺の忠告にも関わらず、その尻尾をオレンジくんに突き刺そうとした。同時に俺は駆け出した。
尻尾の針が刺さるより先に、走り出した俺のドロップキックが地獄のサソリの頭にあたる方が早かった。ぱあんと破裂音がしたかと思うと、サソリの上半身が吹っ飛んで消えた。
気持ち悪い色の体液が、雨のようにあたりに降り注ぐ。反転して着地すると、ビシっと指をさして言った。
「警告はしたぞ、これが神罰だ(物理)」
うおおんと泣きながらオレンジくんが感謝を伝えてくる。今更だけど飛び道具よりなんだか物理攻撃の方が強いのは気のせいだろうか、全く太陽のパワー関係ないぞ。