第二十一話.行商人の商売
第二十一話.行商人の商売
「けっこう色々あるじゃん!」
行商人だという蛇頭族の持ってきた木製の荷車の中身を、次々と興味津々に覗きまわる。見覚えのある作物があれば、塩や綿製品なんかもあった。
しかし、それだけではない。異国情緒はげしい色々な怪しいアイテムがたくさん積まれていたのだ。
「おい!これはなんだ?」
瓶に詰められたカラカラに乾いた真っ黒な塊を指差して言った。
「ゴキブリの乾燥させたものです」
「ええ、ゴキブリ。お前らこんなの食うの?」
「まさか」
蛇頭族の商人の男は言う。
「薬ですよ。粉にして酒にとかしてのむのです」
「食ってんじゃん!」
背中のウロコをパンと叩く。蛇頭族の商人の男はグロロと喉を鳴らした。彼は群れで一番若い雄らしい。
彼らの姿形はいっこう見分けはつかないが、彼だけは右目の上が少しだけオレンジ色に変色しているので区別がつく。
「おいオレンジ頭。こっちはなんだ?」
「それは猿頭族が祈祷に使う木の棒です」
猿の手のように彫刻された木の棒である。孫の手に近い。
「よし、じゃあこの木の棒を買うぞ」
「エッ?ご購入されるのですか」
「おう、気に入った。へテプフェルの王にくれてやろう。背中が痒いときにこれでかけと言ってな」
「はぁ、毎度ありがとうございます」
金貨を三枚渡して、呪われた感じの猿の手の棒を受け取った。うん、この禍々しさが良い。ちなみに金貨一枚は、現代の貨幣で考えると多分10万円くらいだ。
「では、邪神の手をどうぞ。ここで装備していきますか?」
「いや、装備はしないぞ。王に渡すからな」
「わかりました」
それと……。
カラフルな荷台の上の商品を、手に取ってみてまわる。焼いたトカゲとか、蛇頭族の脱皮した皮をビビットカラーに着色したものとか、一歩間違えばガラクタとも取れる宝物がたくさん詰まっている。
その中で、一際目をひくものがあった。ライオンの顔のようなお面だ。
「おい、オレンジくん。これは何に使うものだ?」
「はい、獅子頭族が儀式で使う面です。これだけ呪われたものは、世界に一つしかないでしょう」
「なるほどな」
苦痛にまみれたライオンの顔は、目から血を流しているように赤い筋が入っている。みるからに呪われてそうだし、夜中に見たらびっくりすると思う。
「よしこれも買うぞ」
「エッ!?金貨二十枚の品ですが……」
「わかった」
そう言って、ピカピカに磨かれた金貨を渡した。この仮面をかぶって、夜中にへテプフェルの王を脅かしてやろう。絶対ウケるぞ。
ワクワクしながら、オレンジくんに金貨を渡した。
うん、やっぱり珍しいものを見るのは面白い。蛇頭族の国は水の国と言ったな。
「なぁオレンジヘッド。俺はお前らの国に興味が湧いたぞ。案内してくれないか」
「エッ!?」
「いや、ごほん。太陽と水は切っても切れぬ関係にある。神同士の話がある故に道案内を頼みたいのだ」
急に真顔になって、難しい感じで頼んでみることにした。神様っぽい威厳も必要だしな。
「はぁ。いいですけど、オレンジって呼ぶのやめて貰えないでしょうか」
「なんで?」
「恥ずかしいので」
「いいじゃん、オレンジヘッド。カッコいいじゃん。それにそれ以外では見分けつかないし」
「はぁ、わかりました……」
パンっと背中を叩いてやると、またグロロと喉を鳴らす。なんだか嬉しがっているのだろうか。
「よし、じゃあ出発は明後日の朝だ」
「明後日ですか!?」
「うん。このお面をためしてみたいし」
「はぁ、わかりました」
そういうと、彼は仲間のもとへ帰っていった。何か話し合っているようだ。まぁどうでも良いけどね。
水の神、蛇頭族の神か。
この乾いた大地に作物を無理やり生やしたのだ、やっぱり水源も必要だろう。話し合って、一度水を引いてもらえるようにお願いしてみよう。
「そうと決まれば旅の準備だな」
俺は邪神の手と、呪いの獅子面を持って颯爽と神殿に向かったのだった。