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第二話.異世界の神になる

第二話.異世界の神になる



乾いた大地の真っ只中、湧いた泉を糧として産まれた国があった。大陸の真ん中の、陸の孤島とも言える小さな国家だ。

その都市国家には四角錐状の建造物があった。石造りの祭壇の真ん中に、一匹の山羊が供えられている。祭司らは忙しく動き回り、太陽が東の空を染めるのを待っていた。


そして、その時が来た。

地平の彼方に現れた太陽は、でたらめに荒野を塗り上げて空を燃やした。一条の光が贄の山羊に触れると、とうに絶命していたはずのそれが甲高い鳴き声を上げた。その直後、体内から発せられた炎が山羊の身体から溢れ出た。


「あぁ!我らが神よ!」


燃えさかる炎に向けて、祭司らは白い衣を地につけて平伏し祈りの言葉を唱える。平民だろうか、祭壇の周りを取り囲むようにしている暗い色の染物を纏った人間たちも、それにならって頭を下げる。


「我々の祈りに応え、今こそそのお力を分け与えたまへ!」


ばっと一際大きな白い光を放ち、山羊は祭壇の上から姿を消した。その代わりに一人の男が、むくりとその場から立ち上がる。


「おぉ、おぉ。なんと神々しきお姿!」


まばゆい光とともに現れた人影に、民衆の歓声が轟いた。立ち上がった男は、首を振り辺りを見回している。背丈は170cmほど、黄色い肌に黒髪の男だ。彼ら民とは違う、貴族や王とも違う髪と肌の色。

やや間をもって、祭司長たる神官がうやうやしく祭壇を登り男に近づいていく。瞳がはっきりと見える距離までよると、再びひざまずいて頭を下げてから言った。


「さぁ神よ。現世に降臨されし偉大なる父よ。どうか我々の願いをお聞きください」


うやうやしくこうべを垂れる神官へ、神と呼ばれた男が静かに近づいていく。そして、その偉大なる神は、この世に現出して初めての言葉を紡いだ。


「は。オジサン、何言ってんだ?」


片眉を上げて、神はそう言い放った。

無慈悲な声を聞いた神官は今までの表情から一変して、困惑の色を浮かべる。再び地面に擦りつけるように頭を下げながら彼は言う。


「……!!どうか、どうかお慈悲を!」

「ちょっと、やめてやめて。ほらオジサン顔あげて」

「どうか、慈悲を!!」

「わかったから!」


神と呼ばれた男は「はぁ」と一つ息を吐いて腕を組んだ。


「ご承知頂けましたか!」

「まぁいいけど。まず状況がわかんねえし、どこだよここは」

「皆の者よ!神は我らと共にあるぞ!!」


神官は意気揚々と振り返って、民衆に向かってあらんかぎりの大声で呼びかけた。それに呼応するように、祭壇の下にいる人間たちが喝采で応えた。


「「ウオオオオオオォォォッ!!」」


地を振るわせるような大きな声の波となって、辺りに響いた。声量からして集っている人間の数も百や二百ではきかないだろう。

神官は仰々しく手を挙げると、一人の人間を呼び寄せた。


「王よ、神の御前に」


黄金に輝く首飾りを幾重にも巻いた男が、ゆっくりと近づき神官の隣でひざまずいた。王と言う言葉のイメージからは少し若い、見た目は三十代後半の精悍な男だ。


「ヘテプフェルの王、ヘテプセン二世と申します」

「令和太郎です」

「おぉ!レークァタルゥ様、素晴らしい黄金の力を感じさせる御名前」


王は、大袈裟に両手を広げて続ける。


「我らのような下等な者がレークァタルゥ様とお呼びするのは畏れ多く存じます。平時はなんとお呼びすれば良いものでしょうか」

「なんでもいいよ」

「なんと。ではレイ様とお呼びさせて頂きます。我々へテプフェルの民は我らが主君たるレイ様を信仰しております」


神と呼ばれた男は、眉間に皺を寄せたまま目を閉じて話を聞いている。


「日に三度、太陽に祈りを捧げておりますれば、この度は我らの呼びかけに応じてそのお姿を拝見させて頂く栄誉を賜りまして……」

「いやさっきから、その。神様って、俺の事を神様だと思ってるのか?」

「はい。間違いない事実であると認識しております」


神は言う。


「いや普通に、夢だろこれ」

「天界の摂理は我々地上のものには知る由もありませぬ。現世など儚き夢の如きものかと存じますが、我々にはその夢こそが生きる糧にございます」


完全に古代の王といった風情男は、話を続ける。


「どうか、ヘテプフェルをお助け下さい。悪神を信仰する邪悪な魔物らが、七日もせぬうちにこの地にやってまいります。どうか、我らに与えられた地を守る戦に、お力をお貸し下さい」

「力ねえ、そんなものが俺にあるように見えるか?」

「当然でございます!」


ヘテプセンと名乗った王は、まるで役者のように何事も大仰に応えてみせる。


「伝承では、神の言葉には力が宿り、『射よ』と唱えるだけで悪しきものは串刺しにされたとあります」

「ふぅん」


俺は「射よ」と、そう唱えて指先を眼下に見える民家の鶏に向けた。

その次の瞬間、眩いばかりの光が矢の形になってほとばしった。空を切る稲妻のように疾走ったそれが、何も知らぬ鶏を撃ち抜いた。

地上に小さなもう一つの太陽が生まれた。

ぼっと軽い音を立てると、黒い影を残して地上から鶏が消えて失せた。


「うお!?」


急に起こった出来事にどうじる俺と、いっそう目を輝かせてこちらを見る王。


「これこそがレイ様の奇跡だ!太陽を崇めよ!皆の者、我らが神であるレイ様を讃えるのだ!!」

「「ウオオオオオオーーッ!!」」


大地を震わせるほどに、民衆の声が重なった。

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