第十七話.歯ぁ食いしばれ!
第十七話.歯ぁ食いしばれ!
「見つけた!」
目があった瞬間、茶を飲んでいた豊穣の女神の手が止まる。目を見開いて、驚いたような顔をした。街の中央の神殿の庭、整えられた花畑の中に据えられている椅子に腰掛けている。
長大な跳躍を終えて、重力によって地表に降り立つ。それと同時に俺は駆け出した。
全力疾走だ!
「豊穣のおおおお!!」
叫びながら空を駆ける。踏み出した足が地面に触れるたびに、岩がめくれ上がり火花を散らす。音を置き去りにして、飛ぶように駆けた。パチパチと黒い筋を残して、身体はまるでジェット戦闘機にでもなったようだ。
数秒で女神の神殿にたどり着いた。
あのやろう、まだ悠長に椅子に座ってやがる。このスピードなら、身体ごとぶつかるのが良さそうだ。一筋の光の束になって、そのまま体当たりを仕掛ける。
「おらあっ!」
「かかったわねぇ」
ばっと左右から、イバラが飛び出した。俺の足や身体を絡め取ろうという腹だろう。だが、そのイバラたちは俺の体に触れる前にジュッとも言わず蒸発した。
「うそ!?この化け物!」
女神が立ち上がる。
同時に地面が二つに割れて、大穴から三つの巨大な木の根が姿を表した。その根は捻れるように絡み合って、一つの大樹に成長する。
大きな木製の壁にぶち当たって、俺の身体は停止した。
「硬っ!?硬ってえな!?なんだこれ」
「一つの世界すら支える世界樹よぉ。これは突破できな……」
「おらあああーっ!」
ドコン。
と大きな音がして世界樹が揺れる。思いっきり殴りつけてみたがダメみたいだ。
「無駄でしょう!この世界樹の枝一つでも、一国を滅ぼす力があるのよぉ」
「うるせええーっ!」
思いっきり助走をつけて、前蹴りを放った。
ごぉんと一際大きな音を立てたと思うと、雷に撃たれたように世界樹は上部から真っ二つに割れてしまった。裂け口は黒く焦げてしまっている。そしてその黒い部分から、ぼっと音を立てて燃え始める。
「なんだ、いけるじゃん」
そう言ってつかつかと歩み寄ると、豊穣の女神はぽかんと大きな口を開けて突っ立っていた。
「うそぉ……世界樹を灼くばかがどこにいるのよぉ」
「おい、女神様。覚悟は良いな」
「これだから、これだから原始的な神は嫌なのよぉ!」
「歯ぁ食いしばれ!」
グッと握りしめた拳を、女神様の左頬に思いっきり叩きつけた。